中国人爆買いが転機、今後は「売り手化」のリスク...26年マンション相場に警鐘
写真は東京の夕景。2021年8月、東京スカイツリーから撮影。REUTERS/Marko Djurica
新築マンション価格の高騰を巡り、国土交通省が外国人による購入実態の調査結果を初めて公表した。2025年上半期の東京23区における海外居住者の取得率は3.5%だった。三井不動産出身で、不動産市場に詳しいオラガ総研代表の牧野知弘氏はロイターの取材に対し、「国の調査は実態の一部しか捉えておらず、『外国人の影響は軽微』と結論づけるのは早計だ」と語った。
その上で、中国人の爆買いについては「すでにピークを過ぎており、今後は強力な売り手に転じるリスクがある」と指摘。26年のマンション市況に関しては「日銀の金利引き上げにより、右肩上がりの相場は終わりを迎える可能性が高い」との見方を示した。
――国交省の調査で判明した外国人取得率は、想定よりも少ない印象だ。
この数字は不動産登記情報という限られたソースに基づいており、実態の一部しか捉えきれていない。例えば、ペーパーカンパニーや(日本人の)名義貸しによる購入などは数字に表れていない。調査期間中にたまたま新築物件の供給が少なかった区では、外国人の取得率が0%となるなど、データの偏りも大きい。
これを根拠に『外国人の影響は限定的』と結論づけるのは早計だろう。都心や湾岸エリアのタワーマンションなど特定の物件に限れば、実際には購入者の半数近くが外国人というケースもあり、局所的な過熱感は調査結果の数字以上に大きいと見るべきだ。
――国・地域別でみると、中国本土の割合は外国人全体の約1割だった。
中国本土の比率は直近のピークの19年から大幅に低下し、現在は台湾が6割を占めるという逆転現象が起きている。中国の不動産不況によって資産価格が下落し、彼らの資金繰りが厳しくなっている。投資損失を穴埋めするために、東京都内の保有物件を売却する動きが出始めていると聞く。中国人による不動産の爆買いは、完全に潮目が変わった。
今後、中国景気が一段と鈍化すれば、日本の不動産市場において『買い手』から強力な『売り手』へと転じるリスクがある。為替が円高基調に転じれば、外国人にとっては(為替差益を得られるため)絶好の売り時となる。
――同調査では、購入後1年以内に物件を手放す「短期売買」の状況も公表された。
調査結果から分かるように、実は短期で転売する人の多くは日本人だ。マンション高騰の原因として外国人が注目されがちだが、数億円の高額物件では、30ー40代の若手富裕層の存在感が非常に高まっている。彼らは居住目的ではなく、明確にキャピタルゲイン(売却益)を狙って物件を購入する。不動産投資で資産を築いただけに情報感度が高く、サヤが抜けると判断すればすぐに動く。不動産協会が転売を禁じる対応方針をまとめたが、対象は契約から引き渡しまでの期間に過ぎず、抑止効果は極めて限定的だろう。
――26年の都内のマンション市況をどう予測するか。
来年は大きな転換点になるだろう。最大の要因は金利だ。日銀による政策金利の引き上げにより住宅ローン金利の上昇は避けられない。ただでさえ生活物価が上がり、一般世帯の実質所得が目減りする中、以前にも増して割高な新築物件に手を出しづらくなる。
すでに湾岸エリアでは異変が起きており、直近の数カ月で売り物件の在庫が倍増する一方で、買い希望者は半減した。売り手は強気の価格を維持しているが、肝心の買い手が付いていけない。需給のミスマッチによる価格調整局面に入りつつあり、右肩上がりの相場はいよいよ終わりを迎える可能性が高いとみている。
まきの・ともひろ 83年東大経済卒。第一勧業銀行(現みずほ銀行)、ボストン・コンサルティング・グループを経て、三井不動産に入社。その後独立し、15年にオラガ総研設立。
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