コラム

フェイクニュースから「影響工作」へ──すでに国家安全保障上の課題

2021年07月30日(金)20時00分

フェイスブック社は自身が直面している攻撃を影響工作であるとした

代表的SNS企業であるフェイスブック社は自社が受けている攻撃を影響工作として認識し、対処に取り組み始めた。フェイスブック社が昨年公開したレポートでは影響工作を「戦略的目標のために公の議論を操作、毀損する一連の活動」と広く定義している。また、アカウント停止などにつながる問題をCIB(協調的違反行動、Coordinated Inauthentic Behavior)と呼び、「戦略的な目的のために、公共の議論を操作したり腐敗させたりする協調的な行動」と定義した。

フェイスブックが行動に注目するようになったのには2つの理由がある。あるアカウントやページが影響工作の一環であるかどうかを判断するのに、コンテンツそれ自体は信頼できる基準にならない。問題あるキャンペーンでは、人気のある本物のコンテンツを再利用して視聴者を増やしたり、影響工作を仕掛けるグループが作成したミームを実在の人物が意図せず投稿することがあるのだ。そのためコンテンツ内容に基づいて規制することは、悪意のない人々や悪意のない投稿に過度の影響を与えることになる。第2に、行動に基づいて判断することで、世界で一貫性を保ち、CIBポリシーの適用の中立性を確保できる。また、テイクダウンの内容を公開することで透明性を保つことができる。

つまり従来のようにフェイクニュースやデマを排除することだけではSNSの正常化につながらない。行動に注目することで悪意のない利用者や投稿を排除することも予防できることにつながる(これまでの内容を元に判断する場合は、悪のない利用者や投稿も排除の対象となり得たわけだ)とフェイスブック社は判断したことになる。

現在のフェイスブックはすべての影響工作を独立した問題として扱わないように注意している。影響工作が単一のプラットフォームやメディア上だけで行われることはほとんどなく、複数のプラットフォーム、伝統的なメディア、影響力のある著名人を含む社会全体を対象としている。1つのプラットフォームや機関が単独でこの問題に取り組むことはできないとレポートで語っている。つまり、フェイスブックは、現在進行している攻撃が、1企業だけで防げるものではないこと示し、社会全体つまり国家安全保障上の課題として対処すべきと提言していると言える。

影響工作の傾向と対策

フェイスブック社のレポートでは2017年から2020年までに同社がテイクダウンした影響工作に基づき、最近の傾向と対策をまとめている。概要は下表の通りである。詳細について拙ブログをご参照いただきたい。

まず、最近の傾向として、7つあげている。ホールセールからリテールへ、本物の議論と世論操作の境界が曖昧化、国内に向けた影響工作、パーセプションハッキング、サービスのビジネス化、作戦の安全性の向上、プラットフォームの多様化だ。

ichida0730cc.jpg

これらに対する対策としては、自動検出と専門家による調査の組み合わせ、敵対的デザイン、社会全体での対応、抑止力の向上をあげている。

ichida0730dd.jpg

なお、フェイスブックのレポートによると、海外からの影響工作をもっとも受けているのはアメリカであり、国内に向けての影響工作がもっとも多いのはミャンマーだった。アメリカは国内向けの影響工作もミャンマーに次いで多く、世界でもっとも影響工作にさらされている国となっている。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

アングル:戦闘で労働力不足悪化のロシア、インドに照

ワールド

アングル:フロリダよりパリのディズニーへ、カナダ人

ビジネス

NY外為市場=ドル横ばい、米CPI受け 円は週間で

ビジネス

米国株式市場=3指数が週間で下落、AI巡る懸念継続
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:習近平独裁の未来
特集:習近平独裁の未来
2026年2月17日号(2/10発売)

軍ナンバー2の粛清は強権体制の揺らぎか、「スマート独裁」の強化の始まりか

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発される中国のスパイ、今度はギリシャで御用
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    【銘柄】マイクロソフトの株価が暴落...「AI懸念」でソフトウェア株総崩れの中、投資マネーの新潮流は?
  • 4
    「ヒンメルならそうした」...コスプレイヤーが消火活…
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    【インタビュー】「4回転の神」イリヤ・マリニンが語…
  • 7
    川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に─…
  • 8
    機内の通路を這い回る男性客...閉ざされた空間での「…
  • 9
    中国の砂漠で発見された謎の物体、その正体は「ミサ…
  • 10
    「ドルも弱い」なのになぜ、円安が進む? 「ドル以外…
  • 1
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 2
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 3
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 4
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 5
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 6
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
  • 7
    ビジネスクラスの乗客が「あり得ないマナー違反」...…
  • 8
    がんは何を食べて生き延びるのか?...「ブドウ糖」の…
  • 9
    台湾発言、総選挙...高市首相は「イキリ」の連続で日…
  • 10
    50歳には「まったく見えない」...信じられないレベル…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 6
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story