コラム

「2度の総選挙への干渉を経験」カナダの調査委員会が提示した偽・誤情報対策の衝撃

2025年02月21日(金)14時31分
「2度の総選挙への干渉を経験」カナダの調査委員会が提示した偽・誤情報対策の衝撃

DC Studio -shutterstock-

<偽・誤情報には「騙される」だけでなく、全ての情報に不信感や警戒心を抱く「パーセプション・ハッキング」という効果がある。あらゆる情報を疑い、民主主義にも不信感を持つ警戒主義に陥る>

偽・誤情報や陰謀論の方が多数派になるのではないかと思うくらいにトランプ旋風が吹き荒れている。

アメリカがデジタル影響工作を含むハイブリッド脅威を、世界各国に与える存在となったのは間違いない。そんな中、これまでとは異なる外国からの干渉への対策を打ち出した報告書がカナダから公開された。

日本ではあまり知られていないが、カナダは早い時期からデジタル影響工作や偽・誤情報の対策に取り組んでおり、G7における即応メカニズム(RRM)の立ち上げを主導した国だ。


カナダの調査委員会のふたつの指摘

カナダの「連邦選挙プロセスおよび民主主義制度への外国からの干渉に関する調査」委員会(以下、調査委員会)は2025年1月28日に最終報告書を公開した。

調査期間は約1年半、外国からの干渉が確認された2回の選挙を対象としたものとなっている。報告書は、7分冊という長さで、最初の要約だけで100ページを越えている。

この報告書はさまざまな点でこれまで公開された政府機関による報告書と異なっている。たとえば、こうした報告書によく登場する言葉には、「ファクトチェック」や「プラットフォームの責任」といったものがあるが、7分冊の中で「ファクトチェック」という言葉は2つしか出てこない。プラットフォームに対する責任追及も多くない。

デバンキングやボットなどのネットワークの検知・分析やテイクダウン、プラットフォームのモデレーション、真偽判定、法規制など対症療法的なものを優先的に扱ったレポートが多いのだが、今回の報告書は原則としてカナダ政府機関の対応の評価と改善に焦点が当てられている。

調査委員会は丹念に記録を調べ、政府機関を中心とした関係者を調査したうえで、外国からの干渉と対応の実態を明らかにし、評価を行い、改善すべき点を明らかにした。

意外に思う方もいるかもしれないが、政府機関を含めた全体像を明らかにした調査が政府機関から公開されることは稀である。政府内の各機関の協力が得られないことは少なくない。

外国からの干渉の場合、インテリジェンス機関が関わることが多く、第三者機関がインテリジェンス機関の活動実態を調査し、評価するのは難しい。結果として、政府内部の多くの関係者や国民は、「なにが起きたのか」を知ることができない、ということになりがちだ。

そのため偽・誤情報やデジタル影響工作に関する報道や政府機関の発表は多いが、いずれも全体像をとらえてはいなかった。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

米総合PMI、12月は半年ぶりの低水準 新規受注が

ワールド

バンス副大統領、激戦州で政策アピール 中間選挙控え

ワールド

欧州評議会、ウクライナ損害賠償へ新組織 創設案に3

ビジネス

米雇用、11月予想上回る+6.4万人 失業率は4年
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    「日本中が人手不足」のウソ...産業界が人口減少を乗…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 8
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 8
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 9
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story