コラム

アメリカのサイバー戦略はなぜ失敗したのか──中国が築く「閉鎖ネット」と地政学的優位

2025年10月23日(木)11時41分
サイバーセキュリティ40年の痛恨

Summit Art Creations-shutterstock-

<1980年代に始まったサイバー攻撃と防御の歴史。その最前線を走ってきたアメリカは、いまや「陰謀論大国」と化し、認知戦・情報戦でも敗北を喫している>

コンピューターウイルスやワームなどが世界で話題になり始めたのは1980年代だった。およそ40年前だった。それから進化を続け、軍事的な利用も進んだ。多くの方がご存じのように近年では専守防衛を謳っている日本ですら能動的サイバー防御と言い出すようになった。

サイバー攻撃もサイバー防御も日進月歩で進歩していると我々は感じている。その一方で、サイバー攻撃の被害はなくならない。そこで疑問が湧く。

「いまの防御方法には根本的な欠陥があるのではないか?」
「もっと効果的なアプローチがあるのではないか?」

筆者は近年主として認知戦やデジタル影響工作について調べることが多いのだが、歴史は浅いがこの分野でも同じことが起きている。

アメリカの失敗

攻撃手法は日進月歩で進歩し、防御についてもさまざまな提案が行われている。もっとも変化が激しい領域かもしれない。激しい変化のおかげで、過去に行われてきた調査研究や防御方法がもたらした結果もすぐにわかる。

認知戦やデジタル影響工作の領域で調査研究や対策を世界でもっとも積極的に行ってきたアメリカは、現在陰謀論大国となっている。このことが如実に示しているのは、これまでのやり方は間違いだったということだろう。

とてもわかりやすい結論だと思うのだが、いまだにアメリカで生まれた方法論やツールなどに頼っている人々が日本国内に多数存在するのは不思議だ。

日本以外の国ではサイバー攻撃と認知戦やデジタル影響工作を別物として扱ってはおらず、攻撃においても防御においても一体となっていることがほとんどだ。つまり、認知戦やデジタル影響工作で大失敗した国がサイバー攻撃や防御においてだけは卓越しているということは考えにくい。

このような考えは、かつてはあまり一般的ではなかったが、近年ではそうとも言えなくなってきたようだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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