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今までのアメリカ大統領とは違うから、ドナルド・トランプとの付き合い方は慎重に。ドイツ首相のフリードリヒ・メルツはずっと、そう肝に銘じてきた。しかし出身地ザウアーラントの学校で講演したとき、思わず口を滑らし、対イラン戦におけるアメリカの失態を批判するような発言をしてしまった(ただしドイツ国内にあるラムシュタイン米空軍基地からの出撃を許可し、実質的に戦争に協力した事実には触れなかった)。

するとトランプは腹を立て、ドイツ駐留の米兵(総勢3万5000人超)のうち5000人の撤収を命じた。ロシアの抑止に不可欠としてドイツ側が求めていた長距離ミサイルの配備も撤回するという。

メルツ首相は出身地ザウアーラントの学校で講演した(4月27日)

メルツの発言は無用な挑発だったのかもしれない。しかしトランプが欧州の防衛から手を引きたがっているのは事実で、それが米欧間の緊張を高めているのも事実。そして今、大国ドイツの出方が問われているのも事実だ。

メルツが引き受けたのは、ドイツの「再武装」という途方もなく重い課題。莫大な資金を投じ、目指すは通常戦力で欧州最強の軍隊を育てることだ。ただし2度の大戦の記憶ゆえ国内には非戦・厭戦気分が強く、周辺諸国には欧州一の経済大国が軍事力でも一番になることへの根強い警戒感がある。それでもメルツの率いるドイツは「国防費をGDPの5%超に」というNATOの目標を英仏両国より早く達成するつもりだ。

そこへ降ってきたのが、トランプによる米軍の一部撤収命令。こうなると兵員数や装備の増強を急がねばならず、新たに長距離打撃能力を獲得する道も探らねばならない。その一方、ドイツの軍備増強に対する国内外の反発にも慎重に対処する必要がある。

ドイツ側としては、まずはアメリカに部隊の撤収を思いとどまらせたい。トランプ本人は無理でも周囲の人たちに、ドイツ駐留米軍を周辺国に移転させることの難しさを理解させたい。そもそも何千人もの兵士とその家族を、そう簡単に住み慣れた土地から引き離せるものではない。

ヨーロッパ外交評議会(ECFR)のラファエル・ロスに言わせれば、「バイエルン州から第2騎兵連隊を移転させるという話だが、その困難さはアメリカ側も理解しているはず」だ。なぜなら「この部隊は何十年も前からそこに駐留しており、ずっといることを前提に住宅や訓練施設も整備されている」からだ。

ロシアと接する「東方諸国への派兵は9カ月に及ぶ」が、家族と一緒には暮らせないし、移転先の候補とされるポーランドは「訓練インフラも不十分」だとロスは言う。そもそも兵士たちは、暮らしやすいドイツにとどまりたいと思うはずだ。

モスクワを射程圏内に