生成AIの急速な普及や社会全体の高度なデジタルネットワーク化に伴うデータ量の増大を受け、世界ではデータセンター(DC)の需要がかつてない高まりを見せている。デジタル社会を支えるインフラとして、今やDCは私たちの日常に不可欠な存在だ。
しかし一方で、膨大なデータを高速処理するDCの稼働には、サーバーなどの機器自体の稼働や、その機器を一定温度に保つ空調などで大量の電力が必要となる。また、日本ではDCが東京圏や大阪圏に集中することも課題となっており、大規模災害時のリスク分散の観点から、日本政府は「デジタル田園都市国家構想」の一環としてDCの地方分散を推奨してきた。
大量の電力を化石燃料で賄った場合に生じる環境負荷の問題と地方分散というDCの課題。それらを解決に導く先進的なモデルケースとして業界の注目を集めるのが、2026年3月に竣工した「石狩再エネデータセンター第1号」だ。
同DCのプロジェクトマネジメントを担う東急不動産インダストリー事業本部の安永祥平氏は、同施設内で行われたメディア向け説明会で次のように語った。
「本DCは特定の1社に限定せず、複数の事業者様にご利用いただけるマルチテナント型として設計しています。延床面積は1万1,093平方メートルで、それぞれ約190ラックが設置可能な6区画のデータホールを用意(使用可能電力は1区画1,800キロワット)。多様な要望にお応えできる最先端の設備を導入しており、入居テナント様にはイニシャルコストの削減だけでなく、入居後速やかにご利用いただけるというメリットも提供します」
ビジネス拠点である大都市から離れた遠隔地のDCの場合、物理的な距離に起因する通信遅延(レイテンシ)が懸念となる。そこで同DCでは、NTTグループが推進する次世代光通信基盤である「IOWN」を導入。石狩市と東京・大手町をIOWNの中核技術であるAPN(All-Photonics Network)で繋ぐことで、高速大容量・低遅延・低消費電力な通信環境を実現し、都心に隣接するDCのように利用できる環境を構築した。
設備面についても、停電時などに安定した稼働を実現する信頼性の高い電力設備をはじめ、DCの品質基準であるJDCCファシリティスタンダードの最高基準である「ティア4」相当の設備を導入。指紋認証や顔認証など7段階のセキュリティで、顧客の大切なデータを強固に守る仕様となっている。
独自の「直接供給スキーム」で実現する再エネ100%
最先端のスペックや最高品質の信頼性・安全性のみならず、「石狩再エネデータセンター第1号」が大きな注目を集める理由は、同DCが「再生可能エネルギー100%での運営」を達成している点にある。
「当社が考える理想的な再エネの使い方は、地域で生み出された電力を余すことなく地域で使い切る“エネルギーの地産地消”。石狩再エネデータセンター第1号では、それを最も忠実に実現することができました」と、東急不動産環境エネルギー事業本部の畠山洋平氏は胸を張る。
施設で使用する電力はオンサイトおよびオフサイトPPAで供給予定であり、不足分は石狩市の自社の風力発電所などから東急不動産の100%子会社である株式会社リエネが調達するグリーンエネルギーで賄う。オンサイトPPAとは、敷地内で発電する電力を発電事業者から企業が直接購入する仕組みで、同DCの場合は敷地内に約2メガワットの太陽光発電を設置。そこで発電した電力を自営線で引き込む仕組みだ。2026年12月には、3件目のオンサイト太陽光発電所からの電力供給を予定しており、オンサイトの総量は約4メガワットにのぼる想定となっている。
「自営線による直接供給スキームは非常に合理的で、電力のロスを大きく抑制できるほか、再エネ賦課金や託送料金がかからないため、需要家(顧客)の皆様に安価に電力を提供できるというコストメリットを生み出します。何より、再エネが地域の貴重な資源であり、有力な産業になり得るという実感を社会に提示できるモデルケースになると自負しています」(畠山氏)
日本政府が目指す“ワットビット連携”の理想型
近年、DCによる膨大な電力需要の拡大に対する解として、注目を集めているのが電力(ワット)と情報通信(ビット)を一体的に考え最適化する「ワットビット連携」だ。生成AIなどの活用によるDX(デジタルトランスフォーメーション)とカーボンニュートラル実現に向けたGX(グリーントランスフォーメーション)を同時に実現するための一手として、日本政府も推進するワットビット連携を、「石狩再エネデータセンター第1号」ではまさに理想的な形で実現している。
とはいえ東急不動産が、なぜ今回のような先進的なDCをつくれたのか。その背景には、環境と真摯に向き合ってきた同社の長い歴史がある。同社では1998年に環境基本理念を明文化するなど、業界内でもいち早く環境経営に着手。2014年には再エネ事業に本格参入し、現在では「ReENE」ブランドを中心に、原子力発電所2基分以上に相当する約2.1ギガワットの発電アセットを全国に所有する。
そうしたアセットを生かし、2024年には自社保有施設すべての(分譲マンションなど一部アセットを除く)“100%再生可能エネルギーへの切り替え”を実現し、国内事業会社*では初となる「RE100」を達成。一方、固定価格買取制度(FIT)から非FITへの移行を見据え、発電だけではなく、電力の売り先の確保が重要となる。そこで、同社は電力の需要と供給を同時に生み出す強みを生かし、脱炭素とデジタルインフラの強靭化を同時に実現できるDC事業に参入した。
*金融機関を除く
新たな挑戦の舞台に石狩市が選ばれたのは、DCにとって最適な冷涼な気候や、「北極海海底ケーブル構想*」の陸揚局候補地であり実現すれば欧州・北米に最短遅延時間でネットワーク接続が可能になる立地になることに加え、再生可能エネルギーの大規模集積地として同市が高いポテンシャルを有していたことが理由だ。約3,000ヘクタールに及ぶ石狩湾新港地域の工業団地を中心に、陸上・洋上風力、太陽光など多様な再エネの集積が急速に進む石狩市では、エネルギーの作り手と使い手が同じ土地に同居できるという強みを活かし、産業誘致や経済循環をダイナミックに加速させている。
*日本からヨーロッパまで北極海を経由する光海底ケーブルでつなぐ構想をもったプロジェクト
石狩市と二人三脚で描く、未来志向の「再エネ×まちづくり」
2024年3月には、東急不動産と石狩市で「再エネ利用による持続可能なまちづくりに係る協定書」を締結。再エネの“地産地消”を実現する先導的なGXの推進地域となることを目指し、石狩市新港湾地区に設定された約100ヘクタールの再エネ100%供給エリア「REゾーン」において、官民一体となった取り組みを進めてきた。
東急不動産と石狩市が二人三脚で進める、“再エネを活かした未来志向のまちづくり”。今回の「石狩再エネデータセンター第1号」は、いわばその中核をなすものだ。石狩市の企画政策部企業連携推進課の加藤純氏は次のように話す。
「石狩市は、国の地域未来戦略における『GX・洋上風力』および『半導体・AI』の分野で、北海道が果たすべき重要な役割を担っています。東急不動産様とは、地域の再エネを域外に流出させることなく域内に実装する取り組みを進めてきました。今後も、スタートアップと連携した地域課題解決や、音楽やスポーツを中心とした魅力的な空間づくりなども含め、再エネとデジタルを起点とした新たなまちづくりをともに進めていきたいと考えています」
東急不動産は今後、この石狩市との取り組みを先例とし、郊外型・都市型を問わず全国で再エネ活用型のDC開発を積極的に展開していく方針だ。
「当社では、日本の抱える環境課題や社会的な課題を、不動産の力で解決していくことを目指しています。地域の方々との深い連携も我々の強み。これからも自治体の皆様のリーダーシップや地の利とシナジーを発揮し、未来志向のまちづくりを推進していきたい」と、前述の安永氏は話す。
単なるDC開発に留まらず、地域のエネルギー資源を最大限に活かして“まち”の魅力と活気を引き上げるのと同時に、化石燃料から発生する二酸化炭素(CO2)を抑え、地域の脱炭素化を図る。今回、東急不動産が石狩市とともに示した「再エネ×まちづくり」の共生モデルは、持続可能な日本の未来を照らす確かな道標となるだろう。
●問い合わせ先/東急不動産 データセンター事業
https://www.tokyu-dc.com/dc_ishikari.html