コラム

フェイクニュースから「影響工作」へ──すでに国家安全保障上の課題

2021年07月30日(金)20時00分

影響工作の深刻度のモデル ベン・ニモのブレイクアウト・スケール

この分野の専門家であり、現在フェイスブックの影響工作分析を担当しているベン・ニモは、2020年9月にアメリカのシンクタンク、ブルッキングス研究所から、「THE BREAKOUT SCALE」というレポートを公開した。このレポートでは、現場でリアルタイムに影響工作を評価するためのモデル=ブレイクアウト・スケール(THE BREAKOUT SCALE)を提案している。

このモデルでは、下記のように影響するプラットフォームの数と、コミュニティの数の2つを軸に、6つのカテゴリーに分けている。6が最大の脅威となり、その対象範囲によらず緊急の対処が必要とされる。

ichida0730bbb.jpg

カテゴリー1から3は比較的わかりやすいので説明は割愛する(レポートには詳述されている)。
カテゴリー4は、SNSでブレイクアウトしたコンテンツが新聞など既存のメディアに取りあげられることである。プロパガンダ・パイプラインあるいはフェイクニュース・パイプラインと呼ばれるものと同じだ。たとえば、イランのオペレーション「Endless Mayfly」は、偽のウェブサイトを作成して、カタールが2020年のワールドカップに向けて準備を進めているという偽の記事を掲載し、ロイターが一時的に報じた。ロシアのIRAは、そのアカウントによるツイートが大手の報道機関で紹介されたことが数多くある。2017年1月、ロサンゼルス・タイムズ紙は、スターバックスが難民に仕事を提供することを決定したことに対する反応を伝える記事の中に、IRAの2つの異なるTwitterアカウントのツイートを紹介した。

カテゴリー5は、著名人など影響力のある個人によって作られるブレイクアウト・ポイントである。その代表はドナルド・トランプで、2016年9月28日の選挙演説では、グーグルが「ヒラリー・クリントンに関する悪いニュースを抑えている」と主張し(情報源はブライトバートらしい)、ロシアのプロパガンダメディアであるスプートニクが拡散し、ブライトバートを含む親トランプ派のメディアによって増幅された。

カテゴリー6は緊急の対処が必要なカテゴリーである。たとえば、IRAの作戦は、2016年5月にテキサス州ヒューストンで相反する2つのデモを組織し、デモ参加者に武器を持参するようアドバイスしたことでカテゴリー6に達した。

日本も例外ではない

サイバー空間における影響工作は始まったばかりである。前述の大西洋評議会やNATOサイバー防衛協力センターではAIの活用など新しい技術による脅威の拡大が指摘されている。フェイスブックのレポートでは、国内に向けての影響工作も多く、単純な数では全体のほぼ半数を占める。

日本も例外ではない。フェイスブック社の基準に即すと、影響工作の一環とみなされる活動が4年前の時点で明らかになっている。堂々と国内向けの影響工作要員を募集していたのだ。今後、より広い範囲に広がってゆくことは間違いない。


プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

日鉄、今期の最終赤字700億円に拡大へ 安価な中国

ビジネス

BNPパリバ、収益性向上へコスト削減強化 第4四半

ワールド

中国の25年金消費、前年比3.57%減、2年連続減

ワールド

金現物2.5%安、銀は15%急落 ドル高や米中摩擦
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの帝国
特集:トランプの帝国
2026年2月10日号(2/ 3発売)

南北アメリカの完全支配を狙うトランプの戦略は中国を利し、世界の経済勢力図を完全に塗り替える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 2
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染拡大する可能性は? 感染症の専門家の見解
  • 3
    エプスタインが政権中枢の情報をプーチンに流していた? 首相の辞任にも関与していた可能性も
  • 4
    グラフが示す「米国人のトランプ離れ」の実態...最新…
  • 5
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 6
    ユキヒョウと自撮りの女性、顔をかまれ激しく襲われ…
  • 7
    米戦闘機、空母エイブラハム・リンカーンに接近した…
  • 8
    トランプ不信から中国に接近した欧州外交の誤算
  • 9
    アジアから消えるアメリカ...中国の威圧に沈黙し、同…
  • 10
    電気代が下がらない本当の理由――「窓と給湯器」で家…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 3
    180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決
  • 4
    日本への威圧を強める中国...「レアアース依存」から…
  • 5
    ロシア軍の前線で「弾よけ」にされるアフリカ人...兵…
  • 6
    「出禁」も覚悟? ディズニーランドで緊急停止した乗…
  • 7
    致死率は最大75%のニパウイルスが、世界規模で感染…
  • 8
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
  • 9
    町長を「バズーカで攻撃」フィリピンで暗殺未遂、大…
  • 10
    高市首相の発言は正しかった...「対中圧力」と「揺れ…
  • 1
    【クイズ】世界で最も「レアアースの埋蔵量」が多い国はどこ?【2025年の話題クイズ5選】
  • 2
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 3
    中国製防空レーダーは米軍のベネズエラ攻撃に屈した──台湾高官が分析
  • 4
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 5
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 6
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?【202…
  • 7
    海上自衛隊が水中無人機(UUV)を導入 中国の海軍拡…
  • 8
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」は…
  • 9
    防衛省が「新SSM」の映像を公開、ノルウェー・コング…
  • 10
    中国で大規模な金鉱脈の発見が相次ぐ...埋蔵量は世界…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story