コラム

中国が一帯一路で進める軍事、経済、文化、すべてを統合的に利用する戦い

2020年07月14日(火)17時10分

一帯一路の軍事展開は、港湾と道路の確保だけでなく、中国版GPSと急拡大する中国の民間軍事会社も......  REUTERS/Tingshu Wang

<中国が一帯一路で行っているのは軍事、経済、文化などすべてを統合的に利用する「超限戦」と呼ばれる戦いなのか。今回は、民間企業、社会信用システム、軍事について考えたい......>

これまで中国の一帯一路のサイバー空間教育について見てきた。今回は民間企業、社会信用システム、軍事についてご紹介したい。

中国政府と民間企業との連携は密接

中国において大手民間企業の多くは中国政府の強い影響下にある。主要企業は中国人民政治協商会議のメンバーであり、中国企業と国民は国家情報法の規定により政府の要請に応じて情報を提供する義務を負っている。さらに近年の中国政府は民間企業の経営に介入しているという観測もある(EPOCH TIMES、2019年9月29日)。

一帯一路においては中国およびアジアインフラ投資銀行(AIIB)が相手国に投資するとそれを中国企業が受託してインフラなどの開発を行っている。

また中国の大手IT企業アリババの創業者ジャック・マーはアフリカの企業家育成に乗り出すなどの動きを見せている(Financial Times、2019年12月5日)。余談だが、ジャック・マー自身がその経緯についてNew York Timesに寄稿している(2019年12月5日)。

中国政府と民間企業との連携は密接であり、あらゆる分野にわたっている。後述する社会信用システムや軍事においても同様である。

中国の社会信用システムは一帯一路参加国に広がろうとしている

社会信用システムとは、個人や団体の信用度を評価し社会で共有、利用するためのシステムである。企業や個人の資産の状態、ビジネス、法規制の遵守、トラブルの有無などを総合的に尺度化したものが、いわゆる「信用」となる。たとえばムーディーズやS&Pなどの格付け機関は金融商品などの信用を格付けという形で開示する。日本では全国銀行個人信用情報センターが消費者金融に関わる個人信用、シー・アイ・シーはクレジットカードに関わる個人信用を開示している。民間レベルだとAmazonや楽天の出店者の評価などもその一種と言える。

中国の社会信用システムは国内向けに運用されていたもので、大きく政府、地方自治体、民間企業の3つに分かれる。政府内各部局、地方自治体と民間企業は個々に異なる社会信用システムを構築しており、機能や用途は異なる。近年、共通のAPIが用意され、相互接続されるようになってきている。

日本でよく紹介される芝麻信用は民間企業が運用する社会信用システムのひとつでアリババグループが提供している。WeChatを提供するテンセントの騰訊征信と呼ばれる社会信用システムも多く使われている(ハーバービジネスオンライン、2020年05月14日)。
全体をまとめた表が下記になる。

中国の社会信用システムichida0714bb.jpg


中国の社会信用システムは一帯一路参加国にも広がろうとしている。2018年10月に山東省済南で開かれたイベントで、一帯一路参加国の間で社会信用情報を共有するプラットフォーム「"一带一路"国际合作城市信用联盟」の設立が告知された。参加国は、中国、フランス、イタリア、サウジアラビア、モンゴル、タイ、ミャンマーの7カ国だ。

2020年には中央アジアのカザフスタン、キルギスタン、モンゴルで社会信用システム導入のためのフィージビリティースタディーを行うことになっている。

社会信用システム、監視システムが完備すると監視カメラの映像から顔認証して詳細な個人情報まですぐにたどることができるようになる。デモや反政府活動に参加すれば、すぐに身元がわかる。一帯一路で社会信用システムが共有されることになれば、国境を越えて追跡することも可能だ。中国はこれらを一帯一路参加国に提供することによって、相手国の政権を盤石なものにできる。デジタル権威主義の輸出と呼ばれるゆえんである。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イラン、サウジ・ジュベイルの石化コンビナート攻撃 

ワールド

トランプ氏、イランに「文明消滅」警告 改めて期限内

ワールド

トルコのイスラエル総領事館前で銃撃戦、 犯人1人死

ワールド

高市首相「年を越えて石油確保」、補正考えず 予算成
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:トランプの大誤算
特集:トランプの大誤算
2026年4月14日号(4/ 7発売)

国民向け演説は「フェイク」の繰り返し。泥沼化するイラン攻撃の出口は見えない

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライナ軍司令官 ロシア軍「⁠春の​攻勢」は継続
  • 3
    米軍が兵器を太平洋から中東に大移動、対中抑止に空白
  • 4
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 5
    「王はいらない」800万人デモ トランプ政権への怒り…
  • 6
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 7
    人口減の自治体を救う「小さな浄水場」──誰もが常に…
  • 8
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始め…
  • 9
    地面にくねくねと伸びる「奇妙な筋」の正体は? 飛行…
  • 10
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 1
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 2
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅」企業が救う、ウクライナの未来
  • 3
    イラン戦争の現実...アメリカとイスラエル、見え始めた限界
  • 4
    攻撃開始日も知っていた?──イラン戦争を巡る巨額取引…
  • 5
    「考えの浅い親」が子どもに言ってしまっている口ぐ…
  • 6
    なぜイスラエルは対イラン戦争を支持するのか...「イ…
  • 7
    【銘柄】イラン情勢で一躍脚光の「NEC」 防衛・宇宙…
  • 8
    「南東部と東部の前線で480平方キロ奪還」とウクライ…
  • 9
    中国がイラン戦争最大の被害者? 習近平の誤った経…
  • 10
    「高市しぐさ」の問題は「媚び」だけか?...異形の「…
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 3
    米特殊部隊、米空軍兵士救出「大成功」に残る多くの疑問
  • 4
    「根底にあるのは怒り」...日本の「3Dプリンター住宅…
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    「ノーと言えるスペイン」の背景に国防意識...次期ス…
  • 7
    キャサリン皇太子妃、ナイジェリア大統領夫妻出迎え…
  • 8
    数時間以内に死に至ることも...若者の間で集団感染が…
  • 9
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 10
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story