コラム

中国と一帯一路が引き起こす世界の教育の変容

2020年07月08日(水)16時15分

中国は世界の教育を変えつつある... REUTERS/Thomas Peter

<中国は一帯一路とともに、世界各国で教育による影響力を拡大しようとしている...>

前回の記事では中国がサイバー空間で展開している一帯一路と連動した「超限戦」という新しい戦争についてご紹介した。今回は世界に向けて強力なソフトパワーを発揮している教育についてご紹介する。教育と合わせて民間企業、社会信用システム、軍事についても取り上げる予定だったが、文字数の関係で分けることにした。

一帯一路参加国を中心に教育による影響力を拡大する中国

「超限戦」においては教育も重要な武器となる。教育は必要な人材を育て、中国に対する理解や敬愛を広めることができる。一帯一路との関連においても同様だ。また、一帯一路は参加国の経済成長を促し、交易を広めるので、それを支える人材を大量に育成する必要もある。

2017年10月12日に一帯一路ポータルで公開された(文書自体には2016年7月と記載がある)「Education Action Plan for the Belt and Road Initiative」によれば、一帯一路における教育の目的は3つだ。なお、日本語は逐語訳ではなく、後段の説明も踏まえたものとなっている。

1.人的結びつきの強化( Promote Closer People-to-People Ties. )
2.一帯一路で必要となる能力の育成(Cultivate Supporting Talent. )
3.参加国との協力による教育水準の向上(Achieve Common Development. )

この目的を達成するための主な手段は奨学制度などの支援、現地ワークショップ開催などの教育支援と中国語と文化の教育である。主なものを整理すると下表のようになる。目的と対象ごとに奨学金や学校、制度が用意されている。

・一帯一路の教育関連施策の例ishida0708b.jpg

たとえば2017年には一帯一路参加国から317,200人の学生を中国に迎えており、これは中国が受け入れた海外留学生の64.85%に当たる。中国からは66,100人の学生が37の一帯一路参加国へ留学している。積極的に一帯一路参加国の人材育成に取り組んでいることがうかがえる。表で見たように学生を支援するための奨学金などの制度もとりそろえている。

学校やワークショップでは、対象や目的ごとに用意されている。技術や職業訓練を主体にしたLubanWorkshops(魯班工坊)、修士課程学生を支援するSilk Road School(丝路学院)、一帯一路参加国の中で発展が遅れている国向けの支援プログラムSilk Road Education Assistance Program、中国語と文化を教える教育機関孔子学院と孔子学級といったぐあいだ。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米国務長官、ASEAN地域の重要性強調 関税攻勢の

ワールド

英仏、核抑止力で「歴史的」連携 首脳が合意

ビジネス

米エヌビディア時価総額、終値ベースで4兆ドル突破

ビジネス

FRBが大手銀行の評定方式改定案、「良好な経営」評
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:大森元貴「言葉の力」
特集:大森元貴「言葉の力」
2025年7月15日号(7/ 8発売)

時代を映すアーティスト・大森元貴の「言葉の力」の源泉にロングインタビューで迫る

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 2
    トランプ関税と財政の無茶ぶりに投資家もうんざり、「強いドルは終わった」
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 5
    名古屋が中国からのフェンタニル密輸の中継拠点に?…
  • 6
    アメリカの保守派はどうして温暖化理論を信じないの…
  • 7
    犯罪者に狙われる家の「共通点」とは? 広域強盗事…
  • 8
    アメリカを「好きな国・嫌いな国」ランキング...日本…
  • 9
    【クイズ】日本から密輸?...鎮痛剤「フェンタニル」…
  • 10
    昼寝中のはずが...モニターが映し出した赤ちゃんの「…
  • 1
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...父親も飛び込み大惨事に、一体何が起きたのか?
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...APB「乗っ取り」騒動、日本に欠けていたものは?
  • 4
    後ろの川に...婚約成立シーンを記録したカップルの幸…
  • 5
    シャーロット王女の「ロイヤル・ボス」ぶりが話題に..…
  • 6
    「やらかした顔」がすべてを物語る...反省中のワンコ…
  • 7
    「本物の強さは、股関節と脚に宿る」...伝説の「元囚…
  • 8
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」…
  • 9
    為末大×TAKUMI──2人のプロが語る「スポーツとお金」 …
  • 10
    職場でのいじめ・パワハラで自死に追いやられた21歳…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story