コラム

中国と一帯一路が引き起こす世界の教育の変容

2020年07月08日(水)16時15分

世界の高等教育を席巻する中国と一帯一路

中国および一帯一路は世界各国の大学や教育機関と提携を進めており、最近では英語検定試験IELTSで知られるイギリスのUK-China-BRI Country Education Partnership Initiativeと提携した。世界全体では47の提携を結んでいる。このうち24は一帯一路参加国である。中国の教育ネットワークとでも言うべきものが世界に広がっている。

また、メディアやジャーナリストへのトレーニングを過去5年間に75カ国で行っており、中国から見た世界観を広めている。

注目すべきはその規模である。2017年に中国から海外へ留学した学生の数は608,400であり、世界最多の留学生を送り出している、と中華人民共和国教育部は発表している

ユネスコの統計では2017年海外で学んでいる学生の出身国のトップは中国でおよそ93万人である。中華人民共和国教育部の数値は2017年に留学した学生の数で、ユネスコの数は2017年に海外で学んでいる学生の数である。後者の数は2017年より前に留学し2017年も在籍していた学生も含まれているため数が多くなっていると考えられる(ユネスコ)。2位のインドは33万人、3位のドイツは12万人なのでいかに中国が飛び抜けて多いかわかる。これに一帯一路参加国の留学生も加えるとさらに数は増える。「中国の一帯一路は世界の高等教育を変革する」と言われる由縁だ。

ユネスコの統計によると、海外で学んでいる日本の学生は2017年時点では約3万人で中国の31分の1、3%となっている(独立行政法人日本学生支援機構JASSO、2017年12月)。中国と日本の人口比は 2017年の時点で13.3億対1.3億なのでおよそ10分の1、10%なので人口を勘案しても3倍以上の開きがある。

余談であるが、隣の韓国は世界4位で10万人と日本の3倍以上、人口を勘案(韓国の人口は約0.5億人)すると日本の8倍近くの韓国の学生が海外で学んでいる計算になる。韓国の学生の留学先でもっとも多いのは中国であり、中国が受け入れている留学生でもっとも多いのは韓国からである(OA UPDATES、2018年9月20日)。

人材は国家の基礎である。中国と一帯一路は人口と経済において世界を圧倒しようとしており、さらに優秀な人材を育成したり集めたりすることでその優位性を将来に渡って維持することを図っている。

中国への理解とシンパシーを広げる孔子学院、孔子学級

一帯一路が将来にわたって求心力を持ち続けるためには、中国に対する理解とシンパシーが必要になってくる。そのための組織がConfucius Institute(孔子学院)およびConfucius Class(孔子学級)と呼ばれる学校である。中国語および中国文化を学ぶための教育機関であり、現地の教育機関(大学など)と提携し、その敷地内に設置される。日本でも早稲田大学(早稲田大学孔子学院)や立命館大学(立命館孔子学院)、桜美林大学(桜美林大学孔子学院)など10以上の大学の敷地内に存在する。Confucius Institute Onlineというオンラインコースもある。

BBCの記事(2019年9月7日)によると、全世界に孔子学院は548校、孔子学級は1,193校を展開しており、一帯一路参加国のうち51カ国に135の孔子学院と129の孔子学級がある(前掲Education along the Belt and Road)。

孔子学院と孔子学級に対しては中国のプロパガンダ組織という批判を、アメリカの対中強硬派のマルコ・ルビオ上院議員などが行っている。アメリカのいくつかの大学は「文化と語学教育を隠れ蓑にしたプロパガンダを行っている」として孔子学院との関係を絶った(ロイター、2019年2月23日)。諜報活動に利用しているという指摘もある(「盗まれる大学」ダニエル・ゴールデン、原書房、2017年11月28日)。

一般的に大学や研究機関はプロパガンダやスパイのターゲットであり、中国を批判するアメリカの諜報機関も似たようなことをしている。本題から離れるので詳述はしないが、前掲の「盗まれる大学」では中国とアメリカのそれぞれの諜報工作活動が暴かれている。

しかし、中国および一帯一路の教育展開を批判的に見ているのは主として欧米諸国である。グローバル・サウスの国々は必ずしもそのようには見ていない。彼らの国自身が一帯一路に参加している現実もある。彼らの国で中国が莫大な投資を行い、インフラを建設し、教育を支援している現実がある。

前回書いたように一帯一路参加国はすでに世界人口の過半数を占めており、そのほとんどはグローバル・サウスにある。今後世界人口に占める一帯一路参加国の人口比率は増加する見込みである。中国語と文化を理解した人口も増加することで、さらに一帯一路を好意的に見る人々は増えるだろう。日本にいる我々は欧米からの視点で世界を見ていることが多いのを忘れてはならない。欧米だけを見て世界を語れる時代ではない。

同様に民主主義ももはや世界の主流とは言いがたくなってきている。実は民主主義の衰退は一帯一路の拡大に大きく関係しているのだが、長くなるので稿を改めてお話ししたい。気になる方はクイズ(完全な民主主義」の国に暮らす人口は2019年の時点で世界全体の何%でしょう?)に挑戦していただきたい。詳しい解説をご覧いただくと民主主義のおかれた状況をわかっていただけると思う。

繰り返しになるが人材は国の基礎である。先進諸国がグローバル・サウスでの人材育成、交流を怠ってきたつけが回ってきたと言ってよいだろう。日本の多くの人はアフリカで中国語を学ぶ学生が増加していることを想像できないだろう(ECNU Review of Education Volume: 3、2020年6月1日)。同じことが世界中で起きている。最多の留学生を中国へ送り込んでいる韓国がよい例だ。これが現実に起こっていることなのである。我々から見えてないところで世界の趨勢は大きく変化している。

プロフィール

一田和樹

複数のIT企業の経営にたずさわった後、2011年にカナダの永住権を取得しバンクーバーに移住。同時に小説家としてデビュー。リアルに起こり得るサイバー犯罪をテーマにした小説とネット世論操作に関する著作や評論を多数発表している。『原発サイバートラップ』(集英社)『天才ハッカー安部響子と五分間の相棒』(集英社)『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器』(角川新書)『ネット世論操作とデジタル影響工作』(共著、原書房)など著作多数。X(旧ツイッター)。明治大学サイバーセキュリティ研究所客員研究員。新領域安全保障研究所。

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