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コラム

インフレが進めば、こんな不思議な体験をするかもしれません

2022年05月27日(金)13時00分
喫茶店

ILLUSTRATION BY AYAKO OCHI FOR NEWSWEEK JAPAN

<世界的なインフレが進んでいる。長いデフレに苦しんできた日本も例外ではない。政府は国民の声にどうもツレない>

【一杯のコーヒー】
喫茶店に入った男が、椅子に座ってメニューを眺めた。男は8ドルのコーヒーを頼んだ。

男は出されたコーヒーをゆっくりと味わいながら、持参した本を読んだ。読み終わった後、男は店員を呼んで会計を頼んだ。

すると店員が、「11ドルになります」と言った。

男が聞いた。

「おい、コーヒーは8ドルだったはずだが?」

店員が答えた。

「申し訳ありません。お客様が注文したときには確かに8ドルだったのですが、今は11ドルなんです。インフレがひどくて」

◇ ◇ ◇

新型コロナウイルスの蔓延やロシアによるウクライナ侵略の影響で、世界的なインフレが進んでいる。

インフレは怖い。

私は2002年頃ルーマニアに住んでいたが、当時のおおよそのレートは1ドルが3万3000レイ。1枚の100ドル紙幣を両替すると、かなりの札束となって戻ってきた。気分だけは大金持ちの心境になったものである。

私がルーマニアで暮らし始めた頃、首都ブカレストの物乞いのセリフは「500レイください」だった。しかし、2年後には「1000レイください」になっていた。物乞いの求める額まで上昇していたのである。

同じ頃、近隣国のトルコに行くと、紙幣の0の数はさらに増え、両替時の札束も厚くなった。数字の桁を数えても頭は混乱するばかり。紙幣の色を見て買い物するありさまだった。

サダム・フセイン時代のイラクに潜入したときも、両替したら物すごい札束を渡された。紙幣にはフセインの肖像が描かれていて、財布がフセインの顔でパンパンになった。

アフリカのジンバブエでは、月間のインフレ率が「約800億%」というハイパーインフレが起きたことがある。物価が1日で倍になったというから、前述のジョークもあながち冗談では済まされない。

日本においても過去にはハイパーインフレが発生したことがある。第2次大戦の終結後、日本国内の小売物価指数は戦前の約180倍にまで跳ね上がった。

デフレもインフレもダメ?

バブル崩壊後の日本は長いデフレに苦しんできたが、最近ではいつの間にか物価の上昇が問題となっている。エネルギーなどの価格の高騰が、社会経済活動の成長を妨げるような状況は勘弁していただきたい。

それにしても、「デフレ」もダメだが「急激なインフレ」もダメだというのだから、経済というのは随分と難儀なものだ。あまりにストライクゾーンが狭いように思うが、これは人災によるものなのか。

政府は減税やトリガー条項(ガソリン価格高騰時に揮発油税を下げるなど、発動の条件をあらかじめ決めておく救済措置)を求める国民の声にはどうもツレない。「日本政府は自国民に経済制裁したいのか」と悪口の一つも言いたくなる。

さて、この原稿は家の近所の喫茶店にて執筆した。これから会計となるが、値段が上がっていないことを祈る。

プロフィール

早坂 隆

ノンフィクション作家、ジョーク収集家。著書に『世界の日本人ジョーク集』『新・世界の日本人ジョーク集』(共に中公新書ラクレ)、『指揮官の決断――満州とアッツの将軍 樋口季一郎』『永田鉄山 昭和陸軍「運命の男」』『ペリリュー玉砕――南洋のサムライ・中川州男の戦い』(いずれも文春新書)、『すばらしき国、ニッポン』(文響社)、『昭和史の声』(飛鳥新社)など。最新刊は『世界の日本人ジョーク集 令和編』(中公新書ラクレ)。

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