コラム

ジンバブエに学ぶ2億%インフレの退治法

2010年01月27日(水)17時27分

 ジンバブエで、長年の独裁者ロバート・ムガベが大統領、野党指導者モーガン・ツァンギライが首相という連立政権が09年2月に誕生したとき、彼らにハイパーインフレーションを抑えることなどできるはずがないと思った

 経済は完全に崩壊し、去年の今ごろのインフレ率は2億3000万%に達していた。GDP(国内総生産)は内需も外需もあらゆる面でマイナスだった。テンダイ・ビティはこの惨憺たる状況で財務相に就任し、おそらくは世界で最も困難な仕事に着手した。

 それから1年も経たない今、彼は進捗状況を報告するためワシントンにやってきた。新自由主義の巨人ミルトン・フリードマンがもし生きていたら、さぞかし鼻を高くしたであろうと思わせる報告だ。

■インフレは完全に収まった。ジンバブエ・ドルの流通を停止し、価値が安定した米ドルや南アフリカのランドなど複数の外貨を使用することにしたおかげだ。09年のインフレ率は1%未満まで低下した。

■通貨供給量は1000%削減し、外国為替市場を事実上閉鎖した。官僚が私服を肥やすための市場と化していたからだ。

■生産設備の稼働率は4%から50%近くに上昇した。食品メーカーや飲料メーカーのなかには、95%というところもある。

■今年のGDP成長率はおそらく4%程度で、10年には6%に達するとビティは予測する。

 もちろんすべてがバラ色なわけではない。だがちょっと考えてみてほしい。ジンバブエは、戦争でもないのに10年もマイナス成長を続けた世界初の国。その落下ぶりも世界最速だった。それが、ほぼ平常化したのだ。それどころか、株式市場の時価総額は40億ドルと、アフリカ最大だ。

■独裁者も経済の暴動にはかなわない

 今日、人権擁護団体フリーダム・ハウスの催しで講演したビティは、面白い論理でこの復活劇を説明した。経済が崩壊したからこそ、ムガベは連立に同意せざるをえなくなった、というのだ。「他のものなら対処できる。反政府運動なら叩き潰せばいい。だが、経済を黙らせることができる暴力はない」

 次は、経済回復をテコに民主化を進める番だ。「経済発展には民主主義が不可欠だ」と、ビティは言う。生活水準の低いアフリカでは、「民主主義なしでは人々の生計を維持することもできない」。

 ハイパーインフレーションなど経済との戦いがいかに至難の業に思えても、何より困難なのはやはり政治の戦いなのだ。

──エリザベス・ディッキンソン
[米国東部時間2010年01月26日(火)15時02分更新]

Reprinted with permission from FP Passport, 26/1/2010.©2010 by Washingtonpost.Newsweek Interactive, LLC.

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国際政治学者サミュエル・ハンチントンらによって1970年に創刊された『フォーリン・ポリシー』は、国際政治、経済、思想を扱うアメリカの外交専門誌。発行元は、ワシントン・ポスト・ニューズウィーク・インタラクティブ傘下のスレート・グループ。『PASSPORT:外交エディター24時』は、ワシントンの編集部が手がける同誌オンライン版のオリジナル・ブログ。

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