コラム

学生時代から政治に興味...安野貴博がいま政治の道を選んだ理由とその勝算 「やりたかったことにテクノロジーが追いついてきた」

2025年08月22日(金)07時50分

 なるほどです。今回の件に関してもう一点気になったことは、安野さんは『はじめる力』(サンマーク出版)で「リスクの取り方」を説明されているのですが、その中に「都知事選に出馬する時に色々な人にリスクを聞いて、『変な人に狙われるようなリスクはなさそうだな』ということで出馬した」というようなことが書かれていました。

けれど、パートナーの黒岩里奈さんが(喘息治療薬への発言の後に)危害を加えられてしまいました。そのあたりは何か思うところってありましたか?

安野 何があったかという話を少し補足しておくと、私のパートナーの黒岩里奈が道端歩いてたら突然話しかけられて「安野の妻か」と言われたと。それで「はい」と言ったところ、突然突き飛ばされて色々暴言を吐かれたということがありました。

私はまず、厳重に抗議したいというか、こういうことがあってはならないと思ってます。民主主義の基本はお互いにちゃんと対話ができるということですし、そこに暴力が入ってくると、それが破壊されていくと思います。パートナーの自分からしても許しがたいと思っています。

加えて、そういった危険性がある、リスクがあるというのがこの仕事の1つの側面だなというところもあります。我々が活動する時に、私のパートナーも、チームメンバーも支援者の方々も含めて安全を確保するために、しっかりと何かを行う場所であるとか、あるいは警備の態勢であるとかの体制を整えなくてはいけないなということを改めて思いました。

オードリー・タン氏との共通点、相違点

 ところで、今までにも何回か台湾のオードリー・タンさんという名前が出てきたと思うんですけれど、安野さんはAI技術者ということで比較されることや並べて語られることが多いと思います。ご自身では、タンさんとの共通点、相違点はどこにあると思いますか?

安野 共通点は髪が長いことですかね(笑)。相違点はたくさんあると思います。畏れ多いのであまり比べてほしくないですけれど、私はタンさんが言うような「Plurality*」、つまり技術というのは2つの方向性があって、技術を活用しようと言っている人たちの中でも、イデオロギー的ないくつかの側面がある。1つは権力をガッと集中させるという考え方ですし、いわゆるAIとかの技術って権力を集中するような側面があると思います。

*Plurality:社会的差異を超えたコラボレーションのための技術

一方でビットコインみたいなブロックチェーンの技術などは、権力をすごく分散させて、個人の送金を国であっても止められないみたいな、究極の自由みたいなものを体現しようとしている。この2つがあるわけですよね。

タンさんが言っているのは、この真ん中くらいがちょうど良いのではないか。技術って放っておくとどっちかに引っ張られがちなのですが、この真ん中の、ある種の茨の道を歩くのが大事なのではないかっていうのが、ざっくりと私のタンさんの「Plurality」の理解です。

そこは私もすごく賛同する部分なので、そういった側面を目指しているところはかなり共通してると思います。

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台湾の元デジタル担当大臣オードリー・タン(唐鳳)氏 Ints Kalnins-REUTERS

 デジタル時代の多元性ですよね。デジタル民主主義を推し進めるうえで、やりやすさに台湾と日本の国土の違い、土壌の違いみたいなものは感じますか。

安野 感じますね。やりやすさは、むしろ日本の方がやりやすいんじゃないかなと思っています。

一概には言えませんが、台湾は日本よりも言語の多様性があるところですし、政治的なリスクも中国の脅威を受けています。日本にももちろん、言語の多様性や政治的脅威はありますが、台湾と比較するとやや緩和されている部分があると思うので、その中で良くも悪くもより安定してる方だと思うんです。

新しい「Join」のような仕組みを入れていくにあたって、脅威があるからこそより入っていきやすいっていう側面もあると思うので、そういった意味では日本のほうが向いてないかもしれないですけど、安定しているからこそしっかりと議論ができる部分もあると思うので、そこは一長一短なのかなと思いました。

 ただ、日本の方が新しいものを受け入れにくいというか、「PCは品位がない」ではないですけれども、安野さんに対しても「AIにそこまで任せきりで大丈夫なのか」などと言う人もいますよね。安野さんは「基本的に決断は人間がやります」とおっしゃっているのに、そこの部分をかなり心配されてる人もいらっしゃいます。

安野 そこはあまり浸透していないですよね。「すべてAIに任せるべきだとは思ってない」ということは、強く言っておきたいですね。

チームみらいのこれから

 チームみらい自体の今後の展望も伺いたいです。この先、衆議院選挙や地方選挙でもどんどん候補者を出して勢力を拡大していくとか、何かビジョンはありますか。

安野 基本的に党勢拡大は大きな方向で目指していきたいと思っています。ただ、どれくらいのスピード感を目指すのかというのは色々な議論があります。我々は一人しか議員がいない、まだまだスタートアップ政党で体制もしっかり整っていません。

急激に成長しようとするスタートアップにはそれなりのリスクもあるわけですよね。その企業文化を維持し続けられないとか。それは政党でも全く同じだと思います。適切な成長スピードというのがあるはずなので、それはどれくらいなんだろうねと、今まさに議論してるところです。

ただ、大きな方向として、党勢を拡大して自分たちが良いと思うことをしっかりと実現できるような力を持って行きたいなとは思っています。

 ありがとうございました。

■続きはこちら:シンギュラリティ「任期中に来る可能性高い」 安野貴博に聞いた、AI時代を生き抜くうえで一番大事な力とは?

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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