コラム

放っておいたら維持できない? 「究極の共通言語」計量単位維持・設定の最前線について、臼田孝氏に聞いた

2025年06月02日(月)17時00分
産業技術総合研究所計量標準総合センターの臼田孝・総合センター長

産業技術総合研究所計量標準総合センターの臼田孝・総合センター長 筆者撮影

<長さや重さの計量単位を国際的に統一するために「メートル条約」が締結されて今年で150年。計量の本質や重要性、「秒」の再定義と「月の標準時」設定についてまで、5月20日の「世界計量記念日」にパリで開催された記念式典にも出席した産総研計量標準総合センターの臼田孝・総合センター長に聞いた>

国内のどこであろうと「2キログラム」と表示された米袋を買えば、間違いなく2キログラムの米が入手できると信じられることは、日本が特別な国だからかもしれません。

科学ジャーナリスト茜灯里が、気になるトピックスについて関係者に深掘りするインタビュー企画「茜灯里の『底まで知りたい』」。第2回ゲストは、産業技術総合研究所(産総研)計量標準総合センター・総合センター長で、「計量の番人」である国際度量衡委員会の幹事も務める臼田孝氏です。


世界中のどこでも、どの時代でも、たとえ宇宙人が地球を訪れても同じサイズや量をイメージできる。そんな究極の共通言語である「計量の基本単位」と、「測ることの本質や重要性」を丁寧に分かりやすく語ってくれる臼田総合センター長は、物腰の柔らかなジェントルマンです。講演や一般向けのレクチャーでは、丁寧で分かりやすい説明が評判です。一方、学生時代を振り返って、機械文明に疑問を持った自分のことを「中二病だった」と評するなど、お茶目な面もあります。

このインタビューをより楽しんだり、計量に関する知識を深めたりするために「7つのキーワードで学ぶ『メートル条約締結150周年と基本単位』」の記事もぜひご覧ください。


【今回のテーマ】「測ること」とメートル条約

計量単位は、古くは「王の肘から中指までの長さ」などと決められ、時代や地域でバラバラだったが、国際交流や商取引が活発になると共通認識できる統一の単位系が必須になった。メートル条約は長さや重さの基準を国際的に統一するための条約で、今から150年前の1875年5月20日に17カ国が締結した。日本は10年後の1885年に加盟した。

現在は、メートル条約の適切な執行の監視や、計量単位に関する課題を検討するための国際度量衡委員会が国際度量衡局内に置かれている。

◇ ◇ ◇

 臼田先生は、5月20日の「世界計量記念日」にパリで開催されたメートル条約締結150周年記念式典と基本単位(※)の今後の課題に関する講演会に、国際度量衡委員会幹事として出席されました。記念式典は現地では大きく報道されたのですか?

※メートル条約は、当初は長さ(メートル)と質量(キログラム)のみを定めていたが、現在は、時間(秒)、電流(アンペア)、温度(ケルビン)、光度(カンデラ)、物質量(モル)を加えた7つの基本単位を定めている。

臼田 ご存知の通り、メートル法はフランスで作られたものですし、今回の式典の会場はパリのユネスコ本部だったこともあって、注目は高かったように感じました。フィガロやフランス2などの大手マスコミも取材に来ていましたよ。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

映画監督殺害で「トランプ錯乱症」と米大統領投稿、超

ビジネス

フォードがEV事業抜本見直し、195億ドル評価損 

ビジネス

マスク氏資産6000億ドル、史上初 スペースX評価

ビジネス

米エヌビディア、オープンソースの最新AIモデル公開
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連疾患に挑む新アプローチ
  • 4
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    アダルトコンテンツ制作の疑い...英女性がインドネシ…
  • 7
    「なぜ便器に?」62歳の女性が真夜中のトイレで見つ…
  • 8
    「職場での閲覧には注意」一糸まとわぬ姿で鼠蹊部(…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    トランプが日中の「喧嘩」に口を挟まないもっともな…
  • 1
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 2
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の脅威」と明記
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 7
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 8
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 9
    人手不足で広がり始めた、非正規から正規雇用へのキ…
  • 10
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 5
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 6
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 9
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
  • 10
    ポルノ依存症になるメカニズムが判明! 絶対やって…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story