コラム

放っておいたら維持できない? 「究極の共通言語」計量単位維持・設定の最前線について、臼田孝氏に聞いた

2025年06月02日(月)17時00分


usuda_profile.jpg 産業技術総合研究所計量標準総合センター・総合センター長
臼田孝(うすだ・たかし)
1962年長野県生まれ。諏訪清陵高等学校、東京工業大学卒、同大学院総合理工学研究科修士課程修了。新日本製鐵(現・日本製鉄)勤務を経て、1990年4月に通商産業省工業技術院計量研究所(現在の産業技術総合研究所)に入所。専門は振動計測、光波干渉計、物理センサの校正技術など。ドイツ物理工学研究所、フランス国立科学研究センター、国際度量衡局の各機関で招聘研究員を務め、2012年より国際度量衡委員。現在、同委員会幹事。

 国際度量衡委員会はメートル条約に基づいて150年前に作られた機関で、条約の適切な執行に関する監視や、計量単位に関する国際的課題を具体的に検討する役割を果たしています。「計量の番人」のメンバーの1人として150周年を迎え、先生はどのようなことを思いましたか?

臼田 改めて、「人類が共通言語を打ち立てたすごさ」を感じました。それまでの国家、民族、文化、職業に固有な単位というものを、メートル法の下、ここまで統一して普遍的にした。しかも、同時代で共有されるだけでなく、未来永劫ですからね。


 世界中の人たち、それも現代の人だけでなく、過去の人も、未来の人も、「1メートル」と聞いたら同じ長さを共通で認識できるということですね。

臼田 たとえば地球温暖化という課題1つ取っても、温度の目盛りが場所や時代で変わっていたら、どう温暖化していっているのかは正確に評価できないですよね。そういった「すべての基本になるものを維持していく」という我々の役目の重要性を再認識する場にもなりました。それに、計量の統一というのは、一度成し遂げたからといって放っておいても維持されるわけではないんですよ。

 すみません。かつての計量は「メートル原器」や「キログラム原器」といった「物体」を基準にしていて、どんなに大切に金庫に仕舞っていても、経年劣化や表面吸着で長さや重さが変わるということが起きました。でも、現在は物理定数で再定義されているので、一度決めてしまえば、科学技術の発展で精度が上がることはあっても「維持が大変」ということになるとは思えないのですが......。

newsweekjp_20250520093809.jpg

産総研計量標準総合センターが保管するメートル原器と尺原器 筆者撮影

臼田 たとえば電流の標準(アンペア)を作るというときも、超伝導デバイスを作って、超低温に維持して、ノイズをなくすように計測するという中で、すごく繊細な技術が必要とされます。必要な装置は温度を上げたり下げたりすると劣化しますから、作り直さなければならないんです。そして、我々は1回測って終わりじゃなくて、常々各国の同業機関と相互比較をしているんです。相互監視と言ってもよいかもしれません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

次期FRB議長有力視のハセット氏、政権内で適性に疑

ワールド

米、英との技術協定を一時停止 英デジタル規制など懸

ビジネス

EUのガソリン車販売禁止撤回、業界の反応分かれる

ワールド

米、EUサービス企業への対抗措置警告 X制裁金受け
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を変えた校長は「教員免許なし」県庁職員
  • 4
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 5
    「住民が消えた...」LA国際空港に隠された「幽霊都市…
  • 6
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 7
    【人手不足の真相】データが示す「女性・高齢者の労…
  • 8
    FRBパウエル議長が格差拡大に警鐘..米国で鮮明になる…
  • 9
    空中でバラバラに...ロシア軍の大型輸送機「An-22」…
  • 10
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出を睨み建設急ピッチ
  • 4
    デンマーク国防情報局、初めて米国を「安全保障上の…
  • 5
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 8
    【クイズ】「100名の最も偉大な英国人」に唯一選ばれ…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    中国軍機の「レーダー照射」は敵対的と、元イタリア…
  • 1
    東京がニューヨークを上回り「世界最大の経済都市」に...日本からは、もう1都市圏がトップ10入り
  • 2
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 3
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸送機「C-130」謎の墜落を捉えた「衝撃映像」が拡散
  • 4
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 5
    「999段の階段」を落下...中国・自動車メーカーがPR…
  • 6
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切…
  • 7
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 8
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 9
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 10
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story