コラム

放っておいたら維持できない? 「究極の共通言語」計量単位維持・設定の最前線について、臼田孝氏に聞いた

2025年06月02日(月)17時00分

 各国が持ち寄った数値のうち、どの値を正式に採用するかというのは手続きが決まっているのですか? たとえば平均値を取るとか。

臼田 基本的には加重平均です。もちろん、「もっと大きい値になるはずだ」「ここはちょっと見落としているのではないか」とかの議論はするんですが。


 じゃあ、どこかの国の科学技術予算が大きく削られるとか、紛争が起きて基礎研究に予算を割いている場合じゃないとか、もっと言えば敵対国もいる中で最新の計測技術をオープンに晒しあえる状況じゃなくなってしまうと、維持は難しくなってしまうんですね。

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キログラム原器を保管する産総研計量標準総合センターの金庫 筆者撮影

臼田 メートル条約締結国というのは、かつては原器へのアクセス権のメンバーシップだったのですが、今はワールドカップへの出場権みたいなものに代わったんです。

 計量単位の基準を決めるときに、自国で出した一番自信のある値をテーブルに出せる権利ということですね。そうすると、そのテーブルにつけないと国際社会で自国の科学技術力が遅れていることを示すことになってしまいませんか。

臼田 おっしゃるとおりで、科学技術立国を標榜するならば、基準を決めるときにそこにコミットできないといけないということです。ただ、条約締結国であっても「うちはドイツの衛星国だから、ドイツから(基準を)もらえばいいや」とか、ワールドカップ予選のアジアカップがあって、まずはそこで腕試しをする、なんてこともあります。

 日本はアジア諸国に基準をあげることはあるのですか?

臼田 今日ではどちらの国も実力をつけてきましたけれど、たとえばタイに対しては2000年頃から10年くらいの期間で、JICAの支援プログラムとして計量標準機関の立ち上げを行いました。基準作りのための装置の援助とか指導をして、現在は自力で基準を作れるようになりました。

 まさに「インフラ整備で井戸を作ってあげるのではなく、井戸の作り方を教えてあげる」ですね。基礎科学かつ、生活の基盤となる技術の支援をしたわけですね。

臼田 それから、先ほど不安定な政情の影響を挙げていらっしゃいましたが、メートル条約で最近、大きく変わったものに2019年の「キログラムの再定義」があります。それまではキログラム原器という分銅を使っていたのですが、プランク定数という物理定数を基準とすることに変更されました。プランク定数を正確に測るためには「重さを揃えたシリコン(ケイ素)だけでできた球」が必要です。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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