コラム

「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAXA宇宙研・藤本正樹所長に聞いた「科学的に正しく怖がる方法」

2025年05月03日(土)10時50分
JAXA宇宙研・藤本正樹所長

個別インタビューに応じたJAXA宇宙研・藤本正樹所長 筆者撮影

<4月1日にJAXAの宇宙科学研究所長に就任した藤本正樹氏に、これまでの歩みと地球防衛活動の現状、さらには科学的根拠のない「2025年7月5日天体衝突説」が拡散されている事態を受けての意識変化まで赤裸々に語ってもらった>

21世紀に入り、各国が協力して天体衝突から地球を防衛する「プラネタリーディフェンス(Planetary defense)」に向けた取り組みはSFではなくなりました。

日本もJAXA(宇宙航空研究開発機構)を中心に小惑星の探査観測やサンプルリターン(試料持ち帰り)を行うなど、国際協力での存在感を増しています。本年4月には日本で1週間にわたり、プラネタリーディフェンスの国際ワークショップも開かれました。

そんな中、「2025年7月5日に隕石落下で日本が大災害に見舞われる」という噂は科学的根拠のないまま拡散し、海外旅行者の来日控えなどにも発展しています。

「2025年7月5日に天体衝突はするのか」について掘り下げたインタビュー前編に続き、後編は藤本正樹所長のこれまでの歩みを紹介しつつ、日本のプラネタリーディフェンスの現状と「天体衝突を科学的に正しく怖がる方法」について語っていただきました。


【今回のテーマ】JAXAの地球防衛活動の現状と今後

「プラネタリーディフェンス」計画には、NASA(アメリカ航空宇宙局)のDART(小惑星ディモルフォスに探査機をぶつけた軌道変更実験)、NEOサーベイヤー(宇宙空間にプラネタリーディフェンス専用の望遠鏡を打ち上げる)、ESA(欧州宇宙機関)のHera(二重小惑星の探査)、RAMSES(地球最接近時の小惑星アポフィスの探査)等がある。

大型ミッションで話題になりやすいこれらの計画に対し、JAXAは予算規模こそ小さいが日本の企画力と技術力を活かして小惑星の性質を解明するようなプロジェクトや技術協力で重要な役割を果たしている。また、一般の「地球防衛」への興味の強さは、惑星科学者が思い描くアプローチとはやや異なるようだ。「科学的思考を楽しみながら、正しく天体衝突のリスクを知る」大切さについても考える。

■参考記事:7つのキーワードで学ぶ「プラネタリーディフェンス」 天体衝突から地球を守る活動、その「これまでの成果」とは?


◇ ◇ ◇

 藤本所長は理学部地球物理学科のご出身です。東京大学は2年次に進路を決めるシステムになっていますが、なぜ地球や惑星に興味を持ったのですか?

藤本 当時はバイクで色々な土地に行って風景を見るのが好きだったので、その延長線で惑星に興味を持ったのだと思います。だから、最初は地震学のほうに進もうかとも思っていたんです。でも、大学の授業で電磁気学を勉強したら面白くて、宇宙プラズマ物理学を専門にして数値シミュレーションをするようになって、その後、惑星がどうやって形成できるかというような方向に進んでいきました。

なんか、興味の対象は結構フラフラしてるんですよ。でも、一つだけぶれないのは「分かり方を分かろうとする」ということですね。博士課程に入った25歳ぐらいから「何をもって『分かった』と言うんだろう」ということをすごく考えるようになりました。そこは全然ぶれていないという自信があります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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