コラム

「2025年7月5日天体衝突説」拡散で意識に変化? JAXA宇宙研・藤本正樹所長に聞いた「科学的に正しく怖がる方法」

2025年05月03日(土)10時50分

 宇宙科学研究所では、ご自身の研究とともに、国際プロジェクトに対しても多く貢献されてきました。

藤本 科学衛星のプロジェクトでは、観測装置や研究について国際的な科学作業グループが形成されます。各国の研究者が、プロジェクト自体や軌道投入後の観測運用などについて議論するんですが、僕は英語が結構できるので「ちょっと間の取り持ちをやってよ」みたいになって。プロジェクト・サイエンティストとして活動していく中で、そういう場でいかにJAXAのチャンスを広げるかってことを一生懸命やってきたという感じですね。


fujimoto2.jpg JAXA宇宙科学研究所教授・所長
藤本正樹(ふじもと・まさき)
1964年大阪生まれ。幼稚園時代をロンドン、中学時代をニューヨークで育つ。東京大学理学部地球物理学科卒、同大学院理学系研究科地球物理学専攻博士課程修了。専門は宇宙プラズマ物理学・惑星系形成論。JAXAでは様々な国際協力プロジェクトに貢献し、特に火星衛星探査計画MMXの立ち上げに尽力。小惑星リュウグウの試料が入ったカプセル(探査機「はやぶさ2」から分離して地球に帰還したもの)の回収隊にも参加した。


 国際プロジェクトに参加している時、JAXAは海外の研究者からどんな役割を期待されていると感じますか。

藤本 小惑星探査に関してのアイディアや技術は日本が世界をリードしているっていうのは、共通認識としてあると思います。とくに、小さくてスマートなミッションはそうですね。たとえば「はやぶさ」は、世界的に見たら「小さめのミッション」なんですよね。

JAXAは(世界と比べたら)予算が少ないというところからも想像できると思いますけれど、でっかいチームで分担してやるというよりは、1人1人が頑張れるぐらいのサイズで「ちっちゃいけど賢いミッション」が得意なんです。これからも軽やかに「アイディア賞」みたいなミッションを行って、特徴を出していきたいですね。実際に、そう明言しても恥ずかしくないぐらいには世界に評価されていると思います。

 藤本所長は「プラネタリーディフェンス(地球防衛)」に関しても国際協力を推進しています。JAXAはプラネタリーディフェンスに積極的に取り組んだほうがよいと考えるようになったきっかけは何ですか?

藤本 僕は別に、子供の頃から人類を救うヒーローになろうと思ってきたわけじゃないんですよ。「そういう意識のやつが地球防衛をやって大丈夫か?」って話になるかもしれませんけれど。

時代の要請もありますが、自分自身としては「はやぶさ2」の時にみなさんにミッションの成功をすごく応援していただいているなと感じて、その力に後押しされて頑張れたんです。だから、みなさんにお返しをしなければと考えるようになりました。

 惑星科学の研究者は「太陽系や惑星の起源を解明する」ことに興味を持って研究しています。近年は、「科学者は科学を社会のためにどう活用するかについて強く意識するように」と要請されるようになってきました。惑星科学をプラネタリーディフェンスに活かすというのも、まさにその例だと思います。藤本所長は、そのことについて、科学者として戸惑いがあったり、意識して折り合いを付けたりしていますか?

藤本 これだけ「地球防衛」という話題に皆さんが興味を持つっていうのが純粋な驚きで。実は、本当に嬉しい驚きなのか、嬉しくない驚きなのか、自分でもよく分からなくなることもあります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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