コラム

「2025年7月5日に隕石落下で大災害」は本当にあり得る? JAXA宇宙研・藤本正樹所長にとことん聞いてみた

2025年05月02日(金)19時10分

akane_fujimoto_planetarydefense.jpg

円谷プロが手がけたJAXA「プラネタリーディフェンス」の応援ビジュアル 筆者撮影

 根拠のない噂に対して、その分野の専門家はいちいち取り合っていられないというのはよく分かります。ただ、今はSNSが発達していますから、公的な科学研究機関の見解と同等かそれ以上に声が大きければ「デマ」が広まってしまいます。7月5日説では「物理学者」を名乗る人が天体衝突を肯定している例もあり、不安を募らせている人が多い印象です。そこでJAXAが否定することが重要ではないかと思いました。

それから、天体衝突については「想定被害があまりに重篤な場合、国民がパニックを起こさないためにNASAや日本政府が事実を隠すのではないか」と疑っている人もいます。


藤本 今は、世界中にNEO(Near Earth Object;地球近傍天体)の観測網があり、見つけたら情報を共有するシステムができています。10メートル以上で地球衝突確率1%以上のNEOが現れれば即座にその事実が発表されます。1機関や1国が隠すことはできません。

 専門家でない人たちでも、NEOの新たな発見や衝突確率などを知ることはできるのですか?

藤本 ウェブサイト(筆者注:https://cneos.jpl.nasa.gov/sentry/など)で確認できます。

 ただ、ちょっとややこしいのですが、科学的に正確に言えば「2025年7月5日に天体が衝突しない」とも言い切れないんですよね? 「現在は見つかっていないNEO」が、7月5日に地球に落ちてくるかもしれません。

藤本 そこは、はっきりさせておかないといけないですね。「現在までに見つかっている(相応に大きな)天体で7月5日に落ちると軌道計算されているものはない。だから7月5日に天体衝突という噂は根拠がない」ということです。(小さい)隕石は毎日地球に降り注いでいますからね。

 たとえば約6600万年前に恐竜絶滅を引き起こしたメキシコのユカタン半島沖に衝突した天体の直径は約10キロと推定されています。このレベルの大きさの隕石が再度落下したら再び生物の大量絶滅を起こしますが、数カ月先に地球に落下する直径10キロの天体が見逃されている可能性はゼロと言っていいのでしょうか。

藤本 直径10キロどころか、直径1キロ以上の天体で今後100年以内に衝突するものはありません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

インド製造業PMI、10月改定値は59.2に上昇 

ワールド

ベルギー、空軍基地上空で新たなドローン目撃 警察が

ワールド

北朝鮮との対話再開で協力を、韓国大統領が首脳会談で

ビジネス

再送-中国製造業PMI、10月は50.6に低下 予
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「今年注目の旅行先」、1位は米ビッグスカイ
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    米沿岸に頻出する「海中UFO」──物理法則で説明がつか…
  • 5
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 6
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 7
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 8
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 9
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 10
    「あなたが着ている制服を...」 乗客が客室乗務員に…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 9
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った…
  • 10
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
  • 9
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 10
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story