コラム

原木を叩く、浸す、通電する... 民間伝承から生まれた奇妙なシイタケ増産法

2022年02月15日(火)16時25分

さらに、日本工業大学の平栗健史教授らのグループは、「雷が落ちた時の音の衝撃波が、シイタケの菌糸に刺激を与えて生長を促すかもしれない」と仮説を立てました。

そこで、1日3回、数秒間落雷に近い115デシベルの音をあてると、事前に行った人工の雷を使った実験と同様の増収結果が得られました。音だけならば高電圧装置もいらず、シイタケ農家が低コストで導入しやすいと注目されています。

「ネコが顔を洗うと雨が降る」「ナマズが騒ぐと地震が起こる」などの民間伝承は、「非科学的」と思われがちです。けれど、先祖代々の観察と経験則による生活の知恵とも言える伝承は、今で言う「市民科学(アマチュアによって行われる科学研究)」の先駆けで、近年は科学者によって科学的根拠を探ろうという試みも多数行われています。もしかしたら、科学技術のほうが追いつかずに科学的説明が与えられないだけで、真理が隠されている民間伝承は、思いの外多いのかもしれません。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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