コラム

時差ぼけ解消、睡眠障害治療への応用にも期待...「体内時計を進める新化合物」が発見される

2026年02月06日(金)22時35分
時差ぼけ

(写真はイメージです) STILLFX-Shutterstock

<東向きフライトによるひどい時差ぼけ、交代制勤務に伴う睡眠障害などの治療に役立つかもしれない研究成果を、日本の複数の大学からなる研究チームが発表した>

コロナ禍をきっかけに日本でも在宅勤務やオンラインミーティングが普及しましたが、特に大事な商談やプロジェクトの開始時に「まずはお互いの人となりを知るために、実際に顔を突き合わせて交流すべきだ」と考える企業はまだ多いようです。

とくに海外に行かなくてはならない場合、科学技術が進んでもなかなか解消されない問題として「時差ぼけ」があります。「アメリカ出張のほうがヨーロッパ出張よりも時差ぼけがきつい」など、経験から実感している人も多いかもしれません。


時差ぼけは、国際的に活躍するビジネスパーソンを悩ませるだけではありません。まもなく日本との時差が8時間あるイタリアで行われる「ミラノ・コルティナ冬季五輪」が開会しますが、海外試合に参加するアスリートにとって、時差ぼけは最善のパフォーマンスが出せなくなるおそれがあるので、早めに現地入りをする選手やチームも少なくありません。

さらに身近な例では、日勤と夜勤が組み合わさった形態(交代制勤務)で働く看護師や警備員の人たちは、睡眠や覚醒のリズムを司る体内時計が即時には対応できず、「夜勤明けの休日は1日中眠くて何もできなかった」といった悩みを訴える人もいます。

近年は様々な「時差ぼけ(概日リズム障害)解消薬」が登場していますが、治療に新たな希望を与える研究が日本から発表されました。

金沢大学の程肇名誉教授、大阪大学大学院歯学研究科・ゲノム編集技術開発ユニットの高畑佳史准教授らによる研究グループは、哺乳類の概日時計遺伝子Period1(Per1)を特異的に誘導する化合物Mic-628を新たに発見しました。研究成果は米国科学アカデミー紀要(PNAS)のオンライン版に1月23日付で掲載されました。

概日時計遺伝子はどのような役割を持つのでしょうか。本研究によって、時差ぼけや交代制勤務の弊害にどのような効果が期待されるのでしょうか。概観してみましょう。

アメリカ行きで時差ぼけがきつくなる理由

海外渡航や交代制勤務によって、生物が持つ体内時計(正確には「概日リズム」)と周囲の環境の時刻が著しくずれると、時差ぼけや睡眠障害が起きることがあります。

さらに、体内時計は、早める(前進させる)ほうが遅らせる(後退させる)よりも難しいことが知られています。これは一般にヒトの体内時計は24.5~25時間であり、「放っておくと夜ふかしになっていく」せいだと考えられています。

つまり、身体が周囲と時差を調整しようとする時、体内時計のリズムを「遅らせる」方向は比較的やりやすいのですが、「早める」方向は苦手なのです。ということは、日本からアメリカへ向かうと日付変更線を越えるため1日が短くなり、体内時計は「早める」調整を強いられるため、時差ぼけがきつくなります。

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

イランの「黒い雨」、WHOが健康被害を警告 

ワールド

欧州委員長、原発縮小は「戦略ミス」 化石燃料依存に

ワールド

G7、石油備蓄放出のシナリオ策定をIEAに要請=仏

ワールド

イスラエル外相「終わりのない戦争望まず」、終結時期
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開された皇太子夫妻の写真が話題に
  • 4
    「一日中見てられる...」元プロゴルファー女性の「目…
  • 5
    人間ダンサーを連れて「圧巻のパフォーマンス」...こ…
  • 6
    40年以上ぶり...イスラエル戦闘機「F-35I」が、イラ…
  • 7
    身長や外見も審査され、軍隊並みの訓練を受ける...中…
  • 8
    ホルムズ海峡封鎖、石油危機より怖い「肥料ショック」
  • 9
    トランプも無視できない? イランで浮上した「危機管…
  • 10
    50代から急増!? 「老け込む人」に共通する体の異変【…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    イラン猛反撃、同士討ちまで起きる防空戦はいつまで続くのか
  • 4
    【長期戦はイラン有利】米側の体制転覆シナリオに暗…
  • 5
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 6
    サファリ中の女性に悲劇...ライオンに「くわえ去られ…
  • 7
    日本の保護者は自分と同じ「大卒」の教員に敬意を示…
  • 8
    中国はイランを見捨てた? イランの「同盟国」だっ…
  • 9
    中国、4隻目の空母は原子力艦か──世界3番目の原子力…
  • 10
    縫いぐるみが相棒、孤独なサル「パンチくん」がバズ…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 5
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...…
  • 6
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 7
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story