コラム

前倒し帰還も「素晴らしい決心」「心残りはない」 油井亀美也宇宙飛行士が語った、2度目の宇宙滞在と今後の活動

2026年02月06日(金)17時35分
油井亀美也宇宙飛行士

米ヒューストンから日本向けに帰国記者会見を行った油井さん(2月5日) JAXA|宇宙航空研究開発機構-YouTube

<宇宙飛行士の健康上の理由による早期帰還はISS史上初のこと。決定時の心境や、帰還した今考えていることを油井さんに聞いた>

昨年8月からISS(国際宇宙ステーション)長期滞在し、同僚クルーの健康上の問題から予定を早めて1月に地球に帰還した油井亀美也宇宙飛行士が5日、米ヒューストンから日本向けに帰国記者会見を行いました。

JAXA(宇宙航空研究開発機構)の宇宙飛行士は、ISS滞在から地球に帰還した後に約1カ月半の間、身体を地球環境に再度馴染ませるためのリハビリテーションをNASA(米航空宇宙局)ジョンソン宇宙センターで行います。油井さんは現在、リハビリ期間の真っ最中ですが、「ぴんぴんしていて、自分としてはリハビリをもう終わりにしてもいいくらい」と笑顔で語りました。


油井さんは、米国のマイケル・フィンクさん、ジーナ・カードマンさん、ロシアのオレグ・プラトノフさんとともにCrew11としてISS第73/74次長期滞在ミッションに臨みました。4人は、昨年8月1日(協定世界時)に米スペースX社の宇宙船「クルードラゴン」で地球を出発し、ISS長期滞在を開始。2月半ばに到着予定の後継クルーを待って帰還する予定でした。

しかし、1月初めに滞在クルーの1人に健康上の問題が起こり(宇宙飛行士の名前や具体的な症状はプライバシーを理由として非公表。後にJAXAは「油井さんではない」と認めた)、NASAは地上での精密検査が必要と判断したため、1月15日(同)に地球帰還を前倒しすることになりました。

帰還時も同じ宇宙船に搭乗する都合で、体調不良のクルーだけでなく油井さんら4人のCrew11全員でISSを離れることになりました。宇宙飛行士の体調不良による早期帰還は、ISS史上初めての判断だといいます。

今回のISS滞在は油井さんにとって10年ぶり2回目で、1月7日には宇宙滞在300日の節目も迎えました。会見を通じて知れた油井さんの現在の心境と人となりを紹介します。

「素晴らしい決心」「心残りはない」と心境

会見の冒頭で、油井さんは「約1カ月早く帰ってきましたけれど、いちばん大事なのはみんな揃って地上に元気に帰ってこれたことで、本当に良かったです」と強調しました。

記者に与えられた質疑応答の時間に、筆者は「早期帰還が決まったと聞いた時の、油井さんの率直な心境」について尋ねました。

油井宇宙飛行士「正直、ちょっと驚きはありましたけれども、(関係機関は)素晴らしい決心をされたなと思いました。国の予算を使っている大きな事業なので、その途中でクルーを早く返すという決断をするのは大変だったと思うんです。けれども、クルーの安全を優先して決心をしてくれた。組織の方々に感謝の気持ちでいっぱいでした。

私自身としては、地上の写真を撮る機会はあと1カ月あると思っていましたし、『この時期であればこう写真が撮れるかな』と計画を立てて撮影していたので、突然短くなったことに少し残念な部分はあります。

でも、5カ月の間に、これまでの日本人宇宙飛行士の中で一番写真やビデオ撮った飛行士は自分だっていうぐらい、たくさん撮ってきましたので心残りはありません」

プロフィール

茜 灯里

作家・科学ジャーナリスト。青山学院大学客員准教授。博士(理学)・獣医師。東京大学理学部地球惑星物理学科、同農学部獣医学専修卒業、東京大学大学院理学系研究科地球惑星科学専攻博士課程修了。朝日新聞記者、大学教員などを経て第24回日本ミステリー文学大賞新人賞を受賞。小説に『馬疫』(2021 年、光文社)、ノンフィクションに『地球にじいろ図鑑』(2023年、化学同人)、ニューズウィーク日本版ウェブの本連載をまとめた『ビジネス教養としての最新科学トピックス』(2023年、集英社インターナショナル)がある。分担執筆に『ニュートリノ』(2003 年、東京大学出版会)、『科学ジャーナリストの手法』(2007 年、化学同人)、『AIとSF2』(2024年、早川書房)など。

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