最新記事
テクノロジー

180万トンの「リチウムごみ」を資源に...EV電池の「副産物」で建設業界のあの問題を解決

Toward a Circular Greening

2026年1月28日(水)21時06分
メディ・チョーガン(英カーディフ大学研究員)、リカルド・マダレナ(同大准教授)
充電スタンドに停車し充電中のEV

EV普及に伴う難題とコンクリート業界の悩みのタネを一気に解決するアイデアとは SOMKANAE SAWATDINAK/SHUTTERSTOCK

<「リチウム」と「CO2」。交わらないはずの環境課題が、ひとつの材料でつながり始めた>

2040年の静まり返った街を想像してほしい。その頃には世界の自動車の約6割は電気で走っていると予想されている。

騒音もなければ、大気汚染もない。街はとてもクリーンだ。しかしその裏側は決して環境に優しいものではない。膨大な廃棄物の山が築かれているからだ。

リチウムは電気自動車(EV)用の電池に不可欠の材料だが、抽出過程で大量の廃棄物が出る。23年だけでも世界の電池産業が排出したリチウム関連の廃棄物は180万トン。ほぼ全てが不燃ゴミとなる。

一方で、建設業界も環境問題を抱えている。建築資材のコンクリートは世界で最も広く使用されている人工素材だが、その主成分であるセメントは生産過程で大量の二酸化炭素(CO2)を排出する。

その量たるや世界の全排出量の8%近くを占めるほどだ。

この2つの問題は一見すると何の関係もなさそうだが、実は同時に解決できる妙手がある。リチウムの抽出で出る廃棄物を使ってCO2排出量の少ない「低炭素コンクリート」を作るのだ。

リチウム電池は1970年代に発明されて以来、エネルギーの未来を切り開いてきた。EVの普及に伴い、今後も需要が急拡大するのはほぼ確実だ。

とはいえリチウムは純粋な金属として存在するわけではない。鉱石か塩水から抽出する必要がある。

リチウム資源の大半はチリ、アルゼンチン、ボリビアにまたがる「リチウム三角地帯」にあり、この地域が世界の埋蔵量の6割を占めるといわれている。

電池に使われる純度のリチウムを1トン抽出するために9〜10トン前後の廃棄物が出る。30年までにリチウムの需要は3倍に増える見込みで、このままでは膨大な廃棄物の山が築かれることになる。

資源の有効活用を徹底

ところがこの山は宝の山でもある。セメントに混ぜることでその固着力を補強できる化合物(ケイ酸塩、酸化アルミニウム、酸化カルシウム)を豊富に含んでいるからだ。

英政府はコーンウォール地方とイングランド北東部にリチウムの精錬拠点を建設する予定だ。私たちはそこで出る廃棄物をセメントの置換材にする研究を進めている。

この技術が確立されれば、セメントの使用量が減り、CO2排出量を最大50%削減できる。だが実用化には厳密な実証研究が必要だ。

目下、リチウム関連廃棄物をセメント置換材として使ったコンクリートのミクロ構造や化学的振る舞い、長期にわたる耐久性を検証中だ。

実験室でのテストから始めて本格的な実証試験が完了すれば、その名も「リチクリート」の実用化に王手がかかる。

コンクリートは住宅や橋などほぼあらゆる建造物の構造を支える資材で、その需要は今後も増加の一途をたどるだろう。

リチウム関連廃棄物などのセメント置換材を利用することで、コンクリート業界が削減できるCO2の排出量は、この業界が50年までにカーボンゼロを達成するのに必要な削減量の20%に相当する。

私たちはクリーンな技術は循環型でなければならないと考えている。リチウムなどの資源は余すところなく使い、再利用し、持続的に循環させる工夫が必要だ。

The Conversation

Mehdi Chougan, Research and Innovation Associate at the School of Engineering, Cardiff University and Riccardo Maddalena, Associate Professor in Civil Engineering, Cardiff University

This article is republished from The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.


【関連記事】
リチウムイオンバッテリー火災で国家クラウドが炎上──韓国政府機関の火災が示した「デジタル先進国」の脆さ
【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界の生産量の70%以上を占める国はどこ?
EVは「クルマ」で終わらない――中国EVが「産業地図」を書き換える【note限定公開記事】


ニューズウィーク日本版 教養としてのミュージカル入門
※画像をクリックすると
アマゾンに飛びます

2026年3月17号(3月10日発売)は「教養としてのミュージカル入門」特集。社会と時代を鮮烈に描き出すポリティカルな作品の魅力[PLUS]山崎育三郎ロングインタビュー

※バックナンバーが読み放題となる定期購読はこちら



まちづくり
川崎が「次世代都市モデルの世界的ベンチマーク」に──「世界に類を見ない」アリーナシティプロジェクトの魅力
あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏 、 ホルムズ海峡に多くの国が軍艦派遣と

ビジネス

イラン情勢注視続く、FRB金利見通しも焦点=今週の

ワールド

イスラエル、レバノンと数日内に協議へ ヒズボラと戦

ワールド

北朝鮮の金総書記、多連装ロケット砲の発射訓練視察=
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:教養としてのミュージカル入門
特集:教養としてのミュージカル入門
2026年3月17日号(3/10発売)

社会と時代を鮮烈に描き出すミュージカル。意外にポリティカルなエンタメの「魔力」を学ぶ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する「安価で栄養価の高い魚」の正体
  • 2
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目のやり場に困る」衣装...「これはオシャレなの?」
  • 3
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製をモデルにした米国製ドローンを投入
  • 4
    有人機の「盾」となる使い捨て無人機...空の戦いに革…
  • 5
    「筋肉はモッツァレラと同じ」...なぜウォーミングア…
  • 6
    機内で「人生最悪」の経験をした女性客...後ろの客の…
  • 7
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 8
    イラン攻撃のさなか、トランプが行った「執務室の祈…
  • 9
    ファラオが眠る王家の谷に残されていた「インド系言…
  • 10
    幼い子供たちの「おぞましい変化」を克明に記録...「…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」と言われる外国特派員の私が思うこと
  • 4
    温暖化で増えた? サンマやサケ減少の裏で激増する…
  • 5
    米軍も防ぎきれないイランのドローン攻撃──イラン製…
  • 6
    「このままよりはマシだ」――なぜイランで米軍の攻撃…
  • 7
    職業別の収入に大変動......タクシー運転手・自動車…
  • 8
    キャサリン皇太子妃、英連邦デー式典に出席...公開さ…
  • 9
    世界の視線は中東から日本へ...企業主導で築くインド…
  • 10
    ズボンを穿き忘れてる! 米セレブ、下を穿かず「目の…
  • 1
    ロシア政府、痛恨のミス...プーチンの「健康不安説」を裏付けるような動画を公式に投稿してしまう
  • 2
    メーガン妃、娘リリベット王女との新ショット公開...撮影はパパ
  • 3
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 4
    見事なカンフーを見せた中国ヒト型ロボットのからく…
  • 5
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
  • 6
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 7
    「日本より、自分の国(フランス)を心配すれば?」…
  • 8
    日本の若者「韓国就職」憧れと現実のギャップ ── ビ…
  • 9
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く…
  • 10
    「罠に嵌められた」と主張するが...欧州で次々と摘発…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中