EVは「クルマ」で終わらない――中国EVが「産業地図」を書き換える【note限定公開記事】
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EV最大手の比亜迪(BYD)のショールーム Shutterstock/Robert Way
<今や中国はEVの電池やセンサーで世界をリードする。その積み上げが、いずれ戦場の力学にも及ぶ――そんな未来が現実味を帯びている>
▼目次
1.20世紀のデトロイト、21世紀の中国
2.化石燃料回帰の代償は重い
3.中国EVが生んだドミノ効果
4.EV技術は戦場でも活躍
5.テスラが追いかける側に
1.20世紀のデトロイト、21世紀の中国
始まりは地球温暖化対策だったかもしれないが、ゴールは戦場の電動化にあり。それが中国発の電気自動車(EV)革命の真実だ。
ガソリン車をEVで駆逐すれば二酸化炭素排出量が格段に減るのは事実だが、その先に見据えるのは電動技術とAI(人工知能)を軸とした新たな軍産複合体の時代。このままだと、そこで勝つのは中国だ。
アメリカがもたついている間に、中国はEV産業の垂直統合を成し遂げ、量産技術やサプライチェーンだけでなく、100年先の社会で普及しそうな先端技術の分野でも優位に立っている。
EVで培ったバッテリーの技術はスマートフォンにもドローン(無人機)にも、そして未来の自律型兵器にも転用できる。
この研究開発のパイプラインは深いところで軍事部門に通じている。
AIナビゲーションやロボットにも、いわゆるスマートシティーの建設にも通じる。こうした技術を制する者が未来の社会インフラを制し、未来の戦争に勝利することになる。
「自動車部門の勢いと革新力。それが国の産業力の源泉だ」と本誌に語ったのは元米国務省高官で東アジア情勢に詳しいデービッド・ファイス。「規模の追求にも技術革新の波及にも自動車部門は欠かせない」
見よ、今や中国製のEVは車輪の付いたコンピューターだ。音楽に合わせて「踊る」車もあれば、屋根からドローンを飛ばせるタイプもある。
こうしたEV革命の波に乗り遅れれば、アメリカは気候変動に対処できないだけでなく、20世紀に築き上げた世界一の産業基盤をも失うことになる。
かつてアメリカの独創力の象徴だったデトロイトは、ガソリン車を国内向けに生産するだけの過去の遺物に成り下がるだろう。
そしてアメリカは自らを超大国に押し上げた技術的優位を失い、電動化に突き進む世界から取り残される。
中国がEV市場に参入したのは2009年。ガソリン車では外国勢に勝てないから次世代の電動車両で勝負しようという国策だった。
そして潤沢な補助金と「世界の工場」の量産能力を武器に、飛躍的な成長を遂げた。国際エネルギー機関(IEA)によれば、今や世界のEV生産の70%超を中国勢が占めている。
IEAの試算では、30年には全世界で販売される新車の4割がEVになる見込みだ。しかし中国では、既に昨年実績で5割を超え、今年は6割に達する可能性がある。対するアメリカのEVシェアは昨年実績で1割程度だ。
2.化石燃料回帰の代償は重い
「もしもアメリカが迅速に新エネルギー車に移行できなければ、デトロイトは内燃機関に頼る大型車のニッチなサプライヤーに成り下がる」。
そう警告するのは、自動車業界を専門とするコンサルティング会社ダン・インサイツのマイケル・ダンだ。
カリフォルニア大学バークレー校の名誉教授(政治経済学者)ジョン・ザイスマンも「今のアメリカは内燃機関の孤島に閉じこもり、爆音をとどろかす大型車ばかり製造していた1950年代に逆戻りしつつある」と指摘した。
もはや中国製EVの勢いを止めるのは手遅れかもしれない。
さまざまな機能を備え、魅力的で価格競争力もある中国製EVはイギリスやフランスなどヨーロッパ市場で着実にシェアを拡大している。
ブラジルではEV販売の8割以上、メキシコでもほぼ3分の2を占めている。
その原動力となっているのが人件費の安さと大規模な部品供給網、競争力も規模もある無数の工場、そして政府の補助金だ。
これらが組み合わさることで、過去5年間でEVの平均価格は1割ほど下落し、ガソリン車と同等の水準になっている。
こうしたなか、アメリカは中国に追い付く努力よりも中国製EVを締め出すための取り組みを強化している。
アメリカは今年に入って、国家安全保障上の懸念を理由に、ネット接続機能を持つ中国製EVの輸入と販売を規制した。
民主党のジョー・バイデン率いる前政権はEVの普及促進を目指して税額控除などの優遇策を打ち出していたが、政権に復帰したドナルド・トランプは化石燃料への回帰を鮮明にし、これらの措置を廃止してしまった。
しかしガソリン車に固執してEVへの移行が遅れれば、アメリカの伝統的な工業地帯は失業率と貧困の深刻な増大に見舞われるだろう。
そもそもEVはガソリン車より部品数が少なく、自動化された組立工場ではそれほど多くの労働力を必要としない。
またEV工場の従業員に求められるのは電気システムの操作や高電圧部品の安全な取り扱い、ロボットのプログラミングやメンテナンスなどのスキルであって、20世紀初頭にフォードの工場で生まれた流れ作業の組み立て技術とは大きく異なる。
アメリカは20世紀に「自家用車」という市場を生み出して世界をリードした。
それでアメリカの経済も都市の景観も一変し、グローバルな影響力も増した。フォードが自動車の量産に成功したことで、20世紀前半には庶民が自動車を持てるようになった。
これで労働力の流動性が高まり、郊外住宅地の開発が促進され、鉄と石油の業界に強い追い風が吹き、第2次大戦後のアメリカは世界に冠たる大国になれた。
その成長モデルを、今は中国がEVで再現しようとしている。
その2次的な恩恵は都市のスマート化やサプライチェーンの拡大、AIナビゲーションやロボット工学、バッテリー技術などに及ぶ。
ここで負けたら、アメリカは自動車市場だけでなく、次世代の産業と軍事技術の基盤まで失うことになる。
3.中国EVが生んだドミノ効果
中国でEVが主流になれたのは、国内に巨大な工業力と近代的な社会インフラがあるからだ。
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【note限定公開記事】EVは「クルマ」で終わらない――中国EVが「産業地図」を書き換える
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