最新記事

抗がん剤

虫に寄生する殺虫キノコ、漢方生薬「冬虫夏草」の成分を用いた抗がん剤が開発される

2021年10月14日(木)18時30分
松岡由希子

中医学ではがんや炎症性疾患の治療に用いられてきた IgorChus-iStock

<漢方の生薬「冬虫夏草」の含有成分「コルジセピン」由来の抗がん剤が開発された>

英オックスフォード大学と英バイオ製薬企業ニューカナは、中医学・漢方の生薬として伝統的に用いられている真菌「冬虫夏草(シネンシストウチュウカソウ)」の含有成分である「コルジセピン」由来の抗がん剤「NUC-7738」を開発した。

冬虫夏草は、昆虫の幼虫に寄生して栄養分を接種し、その幼虫から棒状のキノコを発芽させることで知られている。

抗がんの効果があるとみられていた漢方薬だが課題もあった

コルジセピンは「3'-デオキシアデノシン(3'-dA)」とも呼ばれる自然界に存在するヌクレオシド類似体で、抗がん、抗酸化、抗炎症の効果があるとみられて、中医学ではがんや炎症性疾患の治療に用いられてきた。

しかし、冬虫夏草から抽出されるコルジセピンを抗がん剤として用いるためには課題がある。まず、コルジセピンを「ヒト由来平衡ヌクレオシド輸送体1(hENT1)」によってがん細胞へと輸送させる必要がある。また、リン酸化酵素「アデノシンキナーゼ(ADK)」によって活性抗がん代謝物「3'-dAMP」に変換されなければならない。

コルジセピンは、代謝酵素「アデノシンデアミナーゼ(ADA)」により血液中ですぐに分解され、わずか1.6分で血漿で半減してしまうという欠点もある。これらの要因により、コルジセピンは抗がん代謝物を腫瘍に効率的に届けづらく、体内での実際の効力が大幅に減少してしまう。

そこで、「NUC-7738」では、「ヒト由来平衡ヌクレオシド輸送体1」によらずにがん細胞へアクセスできるようにするとともに、「アデノシンキナーゼ」が不要となるよう事前に活性化させた。また、「アデノシンデアミナーゼ」から保護する機能を備え、血液中で分解しづらくした。

効力は7〜40倍に

腫瘍学を専門とする医学雑誌「クリニカルキャンサーリサーチ」で2021年9月8日に発表された研究論文では、「NUC-7738」が様々なヒトがん細胞株でコルジセピンに比べて7〜40倍の効力を持ち、アポトーシスによって細胞死を促すことが示されている。

現在、英国の進行がん患者28人を対象に「NUC-7738」の第1相臨床試験が実施されている。初期データによれば、「NUC-7738」は忍容性が高く、抗がん作用の有望な兆候もみられるという。オックスフォード大学の研究チームでは、ニューカナとの提携のもと、「NUC-7738」の第2相臨床試験も計画している。

今、あなたにオススメ

関連ワード

ニュース速報

ワールド

アングル:失言や違法捜査、米司法省でミス連鎖 トラ

ワールド

アングル:反攻強めるミャンマー国軍、徴兵制やドロー

ビジネス

NY外為市場=円急落、日銀が追加利上げ明確に示さず

ビジネス

米国株式市場=続伸、ハイテク株高が消費関連の下落を
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:教養としてのBL入門
特集:教養としてのBL入門
2025年12月23日号(12/16発売)

実写ドラマのヒットで高まるBL(ボーイズラブ)人気。長きにわたるその歴史と深い背景をひもとく

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開したAI生成のクリスマス広告に批判殺到
  • 2
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 3
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 4
    中国最強空母「福建」の台湾海峡通過は、第一列島線…
  • 5
    おこめ券、なぜここまで評判悪い? 「利益誘導」「ム…
  • 6
    ゆっくりと傾いて、崩壊は一瞬...高さ35mの「自由の…
  • 7
    一瞬にして「巨大な橋が消えた」...中国・「完成直後…
  • 8
    懲役10年も覚悟?「中国BL」の裏にある「検閲との戦…
  • 9
    待望の『アバター』3作目は良作?駄作?...人気シリ…
  • 10
    【独占画像】撃墜リスクを引き受ける次世代ドローン…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入ともに拡大する「持続可能な」貿易促進へ
  • 4
    【実話】学校の管理教育を批判し、生徒のため校則を…
  • 5
    「最低だ」「ひど過ぎる」...マクドナルドが公開した…
  • 6
    ミトコンドリア刷新で細胞が若返る可能性...老化関連…
  • 7
    自国で好き勝手していた「元独裁者」の哀れすぎる末…
  • 8
    【銘柄】資生堂が巨額赤字に転落...その要因と今後の…
  • 9
    香港大火災の本当の原因と、世界が目撃した「アジア…
  • 10
    身に覚えのない妊娠? 10代の少女、みるみる膨らむお…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 3
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした「信じられない」光景、海外で大きな話題に
  • 4
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 5
    「髪形がおかしい...」実写版『モアナ』予告編に批判…
  • 6
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 7
    膝が痛くても足腰が弱くても、一生ぐんぐん歩けるよ…
  • 8
    高速で回転しながら「地上に落下」...トルコの軍用輸…
  • 9
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 10
    インド国産戦闘機に一体何が? ドバイ航空ショーで…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story
MOOK
ニューズウィーク日本版別冊
ニューズウィーク日本版別冊

好評発売中