コラム

ユヴァル・ノア・ハラリ×オードリー・タン対談(3/3)──市民の力で新型コロナウイルスを克服した台湾モデルが世界に希望をもたらす

2020年07月17日(金)11時55分

タン この機械は、実質的な配布台帳になります。台帳はわずか30秒ごとに更新され、過去の数字を改ざんできない仕組みになっています。初めのころは一人当たり1週間に3枚、のちに2週間に9枚のマスクが配布されました。9枚配布されれば、数分後にスマホでアクセスすれば、その薬局の在庫レベルが9枚少なくなっていることが確認できます。もし特定の薬局の在庫がなくなったり、あるいはむしろ増加しているという異常事態が起こった場合、人々はその場で1922に電話して、CECCに報告できます。このことを割と詳しくお話ししているのは、実はこれこそがデータコラボレーションのアイデアの基礎部分だからです。

この仕組みは、公正な分配を確実にするために一人一人が責任を共有するというものです。この仕組みのおかげで、どの地域にマスクが余っていて、どの地域に不足しているのかを分析するダッシュボードを開発する人もいました。夜遅くまで働いていて薬局に行けない人もいます。そういう人のために、24時間営業のコンビニでもマスクの受け取りを可能にしました。この仕組みはもう既に世界的にも有名になっています。

これらのコードは、すべてオープンソースです。韓国の人たちは台湾モデルを例に挙げ、週に一度、一日に一度数字を公開するだけでは不十分だと韓国政府に訴えました。台湾がやったようにリアルタイムAPIを韓国でも公開する必要があると説得したのです。

韓国で最初のマスク配給マップのコードを書いたのは、台湾の台南に住むフィンジョン・キアン氏です。彼は韓国語が話せなくても、コンピューター言語のJavaScriptを書けます。JavaScriptが書ければ、ソフトウエア技術者がボランティアで、ある意味、土木関係のエンジニアのように社会に貢献できるのです。人口の半分以上に当たる1000万人が書かれたコードを利用するからです。

この話の核心は、公平性です。現時点では90%以上の人がマスクの配給システムを利用しています。残りの10%は恐らく、パンデミック以前にマスクを大量に保管していたのかもしれません 。

このアプリを使って、自分の取り分のマスクのうち未回収分を人道支援として海外に送付することもできます。taiwancanhelp.usというサイトに行けば、計500万枚以上の医療用マスクを海外に寄付した30万人の人たちの名前を見ることができます。

また政府高官がこの「台湾製」とプリントされたマスクをつけていると、「1日に200万枚のマスクを自動生産できる自動化された工場の設計図も欲しい」と言われるので、その設計図もシェアしています。

「公平性」は、間違いなく国内だけではなく、本当に国際的な視点でもあります。これが、わたしのモットーである「速く、公平に、楽しく」の3本柱の1つである「公平」の話です。

司会者 気候変動もまた台湾に大きな影響を与える国際的な問題でもあります。台湾は、この問題に関しても非常に興味深い社会イノベーションを起こしています。オードリー、市民によって運営され、分散型台帳上で実行される分散型センサーについて少し教えていただけますか?これも世界とシェアできる台湾の成功事例ですよね?

タン ええ、その通りです。マスクマップがすぐに試作できたのは、空気マップと呼ばれる別のマップが既に存在していたからです。台湾の人たちが自主的にこの分散型台帳に参加して、基本的には学校やベランダなどにセンサーを設置して気候を測っています。

例えば、大気汚染レベルなどを測定し、それを分散型台帳技術で動く市民IoTシステムにアップロードするわけです。

これは何を意味するかというと、もしあなたが大気汚染のある場所に住んでいて、大気汚染の状態を知りたいと思ったら、国内に100程度しかない高精度な気象観測所ではなく、近所の小学校に設置された空気センサーや、高校で情報技術の授業を受けている高校生の観察記録に、携帯電話などでアクセスできるということです。空気センサーは米ドルで100ドル以下、4Gネットワークは使い放題で月16ドルです。台湾ではブロードバンド接続は、人権の一つと考えられているので低価格で提供されています。

これらの仕組みのすべてが、全体としての情報レベルを向上させ、それがまた気候科学に貢献するわけです。分散型台帳の少なくとも1つのコピーは、ナショナル・ハイスピード・コンピューティング・センター(NCHC)にあります。NCHCのスーパーコンピューターは、世界のトップ20に入ります。省エネ部門ではトップ10に入ります。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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