コラム

銀行はイノベーションのハブになれるか

2016年12月06日(火)16時00分

 3つ目はVCマッチング。月に2回行っているイベントで、1回のイベントにベンチャー企業5社、VC数社を集めている。VCはみずほ系の3社を含むものの、他社にも声をかけているという。

「ベンチャー企業にとっては資金調達のためにVCを一軒一軒回る手間が省けるというメリットがあります。ベンチャー投資ってライバルを出し抜くというよりVCみんなで応援するという雰囲気なんですが、VCにとってはVC同士が話し合えるというメリットもあるみたいです」。

「とにかくベンチャー企業が成長するためにお役に立てることは何かを考え、それを効率的に実行する、ということを徹底してやっている部隊です」と大櫃氏は言う。

銀行の主要業務になれるか

 果たしてみずほ銀行は、イノベーション企業支援部にどの程度本気なんだろうか。

「30年前には存在しなかった企業が今では当行の大きなお客様になっていることもあります。ベンチャー企業と早い時点からタッグを組んで成長していくということが大事な業務であるということは、みずほの経営に根付いています」と大櫃氏は指摘する。

 ただベンチャー企業はリスクも大きく、潰れる確率も高い。なので銀行はこれまで及び腰だった。

「でもグループ全体でベンチャー企業を支援していくことによって、上場の際にみずほ証券が主幹事をもらえるかもしれません。みずほ信託が証券代行業務を取れるかもしれません。みずほ系VCが投資してキャピタルゲインを得ることも可能。ベンチャー企業の支援においては、グループ全体で考えることが大事だと、わたくしどもは思ったわけです」

 イノベーション企業支援部の活動としても、進捗具合を測定する指標や目標も定めているようだ。その成果の1つの形として「1年に1件くらい大掛かりなエグジットを発表できるようにしたいですね」と大櫃氏は言う。

 ベンチャー支援という、これまで銀行が得意ではなかった領域にまで踏み込んできたのは、マイナス金利など銀行をめぐる状況が厳しくなってきていることもあるのだろう。

「将来のみずほを作る1つの道を模索しているということだと思います。またここに踏み込んでやっていかないと、銀行業界もそうですが、日本自体がまずいことになると思うんです」。

 画期的な取り組みだけに業界内でも注目を集めているらしく「ライバル銀行から、話を聞かせてくれってやってきました」と笑う。この動きは他行にまで広がっていきそうだ。

 果たして、銀行は日本的イノベーションのハブになれるのか。注意深く見守っていきたい。

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プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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