コラム

銀行はイノベーションのハブになれるか

2016年12月06日(火)16時00分

 大企業とベンチャー企業を結びつけようとする動きは幾つか既に存在する。心ある人達が個人的に動いていたりするが、やはり善意の個人ができることは限られている。持続可能なビジネスとして一定規模にならない限り、イノベーション創造の仕組みにはなり得ない。そんなふうに考えている。

長期的な視点でマッチングを支援

 銀行がビジネスマッチングに乗り出したのは最近の話ではない。金融庁によって、ビジネスマッチングが銀行の付随業務として認められたのが約10年ほど前。

 ただ銀行には紹介責任がある。世間的な理解が進んできたとはいえ、マッチングの片方が、ベンチャー企業というリスクそのもののような事業体では、銀行はどうしても及び腰になってしまう。

 また紹介料として1件当たり上限数百万円を受け取ることが可能な仕組みにはなっているものの、メガバンクの他の花形業務に比べればビジネスの規模は小さい。

 そこでみずほ銀行では、紹介料ビジネスとしてではなく、証券会社やベンチャーキャピタルなどグループ全体の長期的なメリットを重視する形で、大企業とベンチャー企業のマッチングなどを通じて企業の成長を支援するイノベーション企業支援部を今年4月に立ち上げた。

 具体的な業務としては、1つにはビジネスマッチングイベントがある。直近のイベントでは、ベンチャー企業を100社ほどリストアップし、大企業40社ほどに提示。大企業に会ってみたいベンチャー企業を数社選んでもらい、マッチングイベントに臨んでもらう形で、約250件の商談をセットした。

「大規模には年に2回ほど実施していますが、とても熱いイベントです。終了時間になっても、話し込んでいて席を立たない参加者が多いんです」と同氏は笑う。

「それだけ大企業はベンチャー企業を求めている、ベンチャー企業は大企業を求めている、ということなんだと思います。大企業が知らないベンチャー企業に出会えているということなんでしょう」。

 2つ目は、バイオ関連イベント。バイオベンチャーは技術情報を公開したくないもの。なのでビジネスマッチングイベントのような公開の場には出てこない。そこでバイオベンチャーに銀行にきてもらい、みずほ銀行の産業調査部や、化学業界担当者や医薬担当者を集めてプレゼンテーションしてもらうようにしている。銀行には守秘義務があるので、安心して本音を語ってもらえるというわけだ。

 バイオベンチャー側からは、持っている技術の紹介や、将来ビジョンを語ってもらい、製品化、ビジネス化の面で大企業の力をどのように借りたいのかなどを説明してもらう。産業調査部の担当者たちからは、自分が担当している大企業との組み合わせのアイデアを出してもらう。このイベントでも「業務提携の話も出ています。想像を超えた成果が上がってます」と同氏は言う。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

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