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焦点:香港H株を押し上げる中国本土マネー、割安感と米中対立が背景

2025年07月01日(火)18時25分

中国の投資家が香港上場株へと殺到している。本土上場株に比べた割安感と、米中間の対立が強まる中での香港の戦略的立ち位置に引き付けられているためだ。写真はH株指数の株価ボード。香港の中環(セントラル)地区で4月7日撮影(2025年 ロイター/Tyrone Siu)

Samuel Shen Summer Zhen

[上海/香港 30日 ロイター] - 中国の投資家が香港上場株へと殺到している。本土上場株に比べた割安感と、米中間の対立が強まる中での香港の戦略的立ち位置に引き付けられているためだ。

2025年上半期には本土からの香港株投資が過去最高の900億ドル(約12兆9300億円)に達し、相場は21%も上昇した。外国人投資家は過去数年間、香港株を避けてきたが、その景色が一変している。

杭州ウルトラバイオレット・プライベートファンドのファンドマネージャー、チェン・ドン氏は「香港株式市場は本土の資金によって価格が再評価されている。(中国マネーは)ゴールドラッシュのようにさまざまな方向から流れ込んでいる」と述べた。

対照的に、中国の主要株価指数であるCSI300指数は横ばい圏で推移している。相場の低迷、低いリターン、国内経済の停滞に失望した本土投資家は、資金を本土市場のA株から香港上場株(H株)へとシフトしている。H株は通常、A株より割安だ。

香港のハンセン中国企業株指数(H株指数)に追い風となっているのは、本土との株式相互取引(ストックコネクト)制度を通じた多額の資金流入、新規株式公開(IPO)の急増、そして下落する米ドルからの分散投資を図るグローバル投資家だ。

中国人投資家のジュー・ハイファンさん(40)のポートフォリオは今、80%が香港株で占められている。

本土と香港に重複上場する企業の場合「同じ資産なら当然、より安い価格で買いたいものだ」と語るジューさんは、A株に比べて大幅にディスカウントされた青島ビールと広州白雲山製薬のH株を購入した。

ソシエテ・ジェネラルによると、香港では現在、本土投資家によるストックコネクト経由の取引が1日の出来高の50%を占め、2024年初頭の約30%から拡大している。

機関投資家の資金も多く流入していることで、重複上場銘柄の価格差は縮小しているものの、中国当局の資本規制により一定の差は残っている。

A株のH株に対する平均プレミアムは現在、5年ぶりの低水準である30%未満に縮まった。

<上昇は続く>

こうした価格差の縮小により、本土投資家がH株を購入するインセンティブは低下する可能性があるが、それでもH株の上昇は続くとアナリストは予想している。トランプ米大統領の不安定な政策、米国の利下げ再開、中国の技術革新への期待を背景に、香港株にはさらに資金が流入するとの見方だ。

中国の長期国債利回りが過去最低水準で推移する中、高配当の香港銀行株は、利回りを重視する本土機関投資家を引き寄せている。

LSEGのデータによると、H株指数の配当利回りは3.7%で、中国CSI300指数の2.9%を上回っている。中国の10年物国債利回りは1.65%だ。

UBPの北アジア株式アドバイザリー部門責任者、リンダ・ラム氏は、香港に上場するハイテク銘柄の多さに触れ、香港市場は「中国を代表する企業」の代理指標へと進化したと指摘。これに対し、本土A株はマクロ経済に敏感なセクターの銘柄が多く、投資家心理を圧迫していると語った。

ゴールドマン・サックスは今月、中国の「卓越した」上場企業10社のリストを公表したが、その大半は本土市場で上場していない。

リストには、人工知能(AI)に投資し、米中技術戦争で主導権を握る騰訊控股(テンセント・ホールディングス),、アリババ・グループ、小米科技(シャオミ)などが含まれる。

河南省の個人投資家、グオ・チャンジェンさんは昨年末から香港の高配当株を買い始めた。「中国の債券利回りは低く、預金金利も低いので、あまりリスクを取らずに投資できる対象はほかに何だろう」と考え、香港に上場しているが本土には上場していない中国企業株を保有している。

CSOPアセットマネジメントのワン・イー最高投資責任者は香港株について強気の見方を崩していない。「グローバル投資家が再び(香港)市場に注目しているのを目撃している」とワン氏は語った。

ロイター
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