コラム

シリコンバレーのリクルートAI研究所はチャットボットを開発していた

2016年11月07日(月)16時00分

yukawa161107-2.jpg
グーグルのAI研究を率いていたハレビー(右)と筆者 Tsuruaki Yukawa

 同氏によると、同研究所はリクルート本社とだけではなく、大学や研究機関、他のベンチャー企業との関係も深めていきたいと言う。「そのために、われわれはだれもが自由に利用できるオープンソースソフトウェアをたくさん開発していくつもりです」。

 オープンソースにすることで、外部の研究者の協力を得て、AI研究の生態系を構築しようという考えだ。

「Googleは優秀な研究者を大量に抱え込んでいるので、外部と連携する必要がない。彼ら以上にいい仕事をしようと思えば、開かれた組織にするしかない。いや開かれた組織のほうが、よりいい仕事ができるのではないかと思っています」。

 研究者コミュニティで一目を置かれている同氏だからできること、シリコンバレーのど真ん中にいるからこそできることだと言える。

グーグルにないデータが魅力

 一番気になっている質問を同氏にぶつけてみた。どうして同氏はGoogleの職を辞めてまでして、リクルートの研究者になったのだろう。

「データがユニークで興味深かったからです。ここまでいろいろな事業のデータを1社が持っている例は世界的に見ても珍しい」と答えてくれた。AI研究者がデータに惹かれるという話は、本当だった。

 これまでリクルートは、異なる事業のデータをバラバラに持っているということが、業界内でも話題になっていた。業界関係者から「データを統合できていない。宝の持ち腐れ。しょせん営業力だけの企業」と揶揄する発言を、過去に聞いたことがある。

 ところがAIでデータの統合が可能になった。持ち腐れと言われていたデータが、一気に宝の山に変わろうとしているわけだ。

「Googleは検索のデータしか持っていない。リクルートは、ユーザーの生活に密着した実際のアクションのデータをたくさん持っている。こっちのほうがおもしろいことができそうです」とHalevy氏は指摘する。

リクルートを進化させる3つのプロジェクト

 具体的には、Halevy氏たちは3つの研究開発プロジェクトを同時進行させているのだという。

 1つ目は、自然言語処理。リクルートが取り扱う人材ビジネスや、旅行、不動産、グルメなどのデータは、数字より、文章などのいわゆる自然言語のデータが多い。文書などの自然言語をAIに理解させるのは非常に難しく、今日のAI研究の最大の課題の1つと言われている。

 2つ目は、機械学習の領域。「実際には、機械学習自体のアルゴリズムは既に優れたものがたくさんある。問題は、その周辺の技術。エンジニアがいろいろな予測モデルを簡単に試せるようなツールを開発している」という。

プロフィール

湯川鶴章

AI新聞編集長。米カリフォルニア州立大学サンフランシスコ校経済学部卒業。サンフランシスコの地元紙記者を経て、時事通信社米国法人に入社。シリコンバレーの黎明期から米国のハイテク産業を中心に取材を続ける。通算20年間の米国生活を終え2000年5月に帰国。時事通信編集委員を経て2010年独立。2017年12月から現職。主な著書に『人工知能、ロボット、人の心。』(2015年)、『次世代マーケティングプラットフォーム』(2007年)、『ネットは新聞を殺すのか』(2003年)などがある。趣味はヨガと瞑想。妻が美人なのが自慢。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

APEC首脳会議、共同宣言採択し閉幕 多国間主義や

ワールド

アングル:歴史的美術品の盗難防げ、「宝石の指紋」を

ワールド

高市首相「首脳外交の基礎固めになった」、外交日程終

ワールド

アングル:米政界の私的チャット流出、トランプ氏の言
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:高市早苗研究
特集:高市早苗研究
2025年11月 4日/2025年11月11日号(10/28発売)

課題だらけの日本の政治・経済・外交を初の女性首相はこう変える

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 3
    9歳女児が行方不明...失踪直前、防犯カメラに映った「意外な姿」に大きな注目、なぜこんな格好を?
  • 4
    だまされやすい詐欺メールTOP3を専門家が解説
  • 5
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 6
    「日本のあの観光地」が世界2位...エクスペディア「…
  • 7
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 8
    筋肉はなぜ「伸ばしながら鍛える」のか?...「関節ト…
  • 9
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 10
    虹に「極限まで近づく」とどう見える?...小型機パイ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読み方は?
  • 4
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」は…
  • 5
    【話題の写真】自宅の天井に突如現れた「奇妙な塊」…
  • 6
    【ウクライナ】要衝ポクロウシクの攻防戦が最終局面…
  • 7
    女性の後を毎晩つけてくるストーカー...1週間後、雨…
  • 8
    【クイズ】1位は「蚊」...世界で「2番目に」人間を殺…
  • 9
    中国レアアース輸出規制強化...代替調達先に浮上した…
  • 10
    庭掃除の直後の「信じられない光景」に、家主は大シ…
  • 1
    【クイズ】本州で唯一「クマが生息していない県」はどこ?
  • 2
    英国で「パブ離れ」が深刻化、閉店ペースが加速...苦肉の策は「日本では当たり前」の方式だった
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になり…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 7
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 8
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】クマ被害が相次ぐが...「熊害」の正しい読…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story