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アングル:イラン反体制勢力にジレンマ、イスラエル攻撃で好機到来も

2025年06月20日(金)18時34分

 6月19日、イラン国内の各種反体制グループは、同国とイスラエルとの軍事衝突を受け、自分たちが希望する瞬間の到来が近づいてきたかもしれない、と考えている。しかし現体制を憎みつつも、祖国が攻撃にさらされているこのタイミングで大規模な騒乱を起こそうとは考えていない。写真はロンドンのイラン大使館前で、米国に亡命中のイラン元皇太子、レザ・パーレビ氏の写真を掲げる人。2022年10月撮影(2025年 ロイター/Henry Nicholls)

Parisa Hafezi

[ドバイ 19日 ロイター] - イラン国内の各種反体制グループは、同国とイスラエルとの軍事衝突を受け、自分たちが希望する瞬間の到来が近づいてきたかもしれない、と考えている。しかし現体制を憎みつつも、祖国が攻撃にさらされているこのタイミングで大規模な騒乱を起こそうとは考えていない。

分派が激しいイランの反体制亡命勢力からは、街頭での抗議行動を呼びかける声が聞かれる。イスラエルがイランの治安機構を叩く中、国境地帯では少数民族であるクルド人やバルーチ人の分離主義グループも蜂起の構えを見せている。

イランは1979年の革命直後以来で最も弱体化したように見えるが、46年にわたる現在の支配体制を転換するには、何らかの大衆蜂起が必要となる公算が大きい。しかし、こうした事態が実際に起きるか、差し迫っているかについては議論が分かれている。

米国に亡命中のイラン元皇太子、レザ・パーレビ氏は今週のインタビューで、自身が体制移行を主導したいと語り、「今は過去40年間でイラン・イスラム共和国を打倒する最大のチャンスであり、われわれにとって歴史的瞬間だ」と強調した。

イスラエルにとってイランの体制転覆が攻撃目的の1つであるのは間違いなく、イスラエルのネタニヤフ首相はイラン国民に向けて「われわれもまた、皆さんが自由を手に入れるための道を切り開いている」と語りかけた。

イランの現体制は長年にわたり大衆の反体制抗議行動を抑え込んでおり、今回も抗議への備えを整えている兆しが見られる。抗議行動に対して動員されることが多い民兵組織「バスィージ」のメンバー、モハンマド・アミン氏は、自分の部隊が「イスラエルのスパイを摘発し、イラン・イスラム共和国を守るため」に警戒態勢に入ったと証言した。

しかし、今回のイスラエルによる軍事攻撃はイランの治安組織を標的とする一方、一般市民の間にも大きな恐怖と混乱を引き起こしており、イラン当局だけでなくイスラエルに対しても怒りが生まれていると活動家たちは話している。

現在はイランを離れている著名な活動家、アテナ・ダーエミ氏は「こんな恐ろしい状況でどうして抗議デモができるだろうか。今は誰もが、自分自身や家族、同胞、さらにはペットを守ることだけに必死だ」と述べた。

<イスラエルにも憤り>

イランで最も名の知れた活動家で、2023年のノーベル平和賞を受賞したジャーナリストのナルゲス・モハンマディ氏も、イスラエルがテヘランの一部地域からの避難を人々に求めたことに対し、「私の街を破壊しないで」とソーシャルメディアに投稿。祖国への思いをにじませた。

2年前に女性が頭髪を覆う布「ヒジャブ(ヘジャブ)」のかぶり方が不適切だとして逮捕され、その後拘束中に急死したマフサ・アミニさんの事件を受けて行われた大規模な抗議に参加した活動家2人も、ロイターがイラン国内で行った取材で、現時点では抗議を行う予定はないと明かした。

南部シーラーズの大学生は「攻撃が終わった後に声を上げる。現政権が戦争の責任を負っているからだ」と述べた。もう1人の活動家も、政権交代を信じているが「今は街頭に出るべき時ではない」と語った。集会を開いたり、参加したりする計画はなく、国外からの抗議の呼びかけについては「イスラエルも、いわゆる国外の反体制指導者たちも、自分たちの利益しか考えていない」と断じた。

パーレビ王政派以外のイラン国外における主な反体制勢力がムジャヒディン・ハルク(イスラム人民戦士機構、MOK)だ。ただ、多くのイラン国民はMOKが1980─88年のイラン・イラク戦争の際にイラク側に与したことをいまだに許していない。

国外の反体制派グループがイラン国内でどれだけ支持を得ているかは不明だ。革命前の時代に対しては懐古の感情が一部で残るものの、多くの国民にとっては既に記憶が薄れている。

イラン国内の過去の全国的な抗議運動はそれぞれテーマが異なっていた。2009年は「盗まれた」とされる大統領選挙、2017年は生活水準の低下、そして2022年は女性の権利がきっかけだった。

イラン国内の反体制勢力にとっては、イスラエルの空爆が続く中、いつ抗議に動くべきか、どのような目的を掲げるべきか、誰の指導に従うべきかといった答えのない問いが、ますます切実さを帯びている。

ロイター
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