コラム

森喜朗女性蔑視発言は、なぜ沈静化しないのか──ジェンダー対立に留まらない5つの論点

2021年02月10日(水)18時43分

発言内容の全文を読むと決して失言ではない。明確な意図と、むしろ責任感を持って発言されている。

「文部科学省の割当などというルールが最近があるが、自分は女性理事が増えることに反対だ」というメッセージを評議会メンバーに伝えている。「テレビがあるからやりにくい」「あまりいうと新聞に悪口かかれる」自身の発言が社会的には許容されないということを明確に理解して発言した確信犯だ。森会長は、巧妙なのか、冷たい空気を読んだのか、最後に


"ですからお話もきちんとした的を得た、そういうのが集約されて非常にわれわれ役立っていますが、欠員があるとすぐ女性を選ぼうということになるわけです。"

とフォローもしている。森会長を擁護する人は、マスコミによって最後のメッセージが切り取られているとこの部分だけを切り取り反論する。ただ、文脈全体をしっかり読むと、「女性はわきまえていれば」そういう女性には処遇を提供しますよという黒い意図を匂わせている。

長老 vs 若手

私自身は男性で若手と言える年齢ではないが、先程の女性たちの気持ちが経験上推察できる。日本においては、目上の人に対して、男性の若手が発言する時にも同様の空気感と無言の圧力が流れるからだ。

自分は長々と取り留めもない話を、その場で考えながらダラダラと話し、若手や女性が自分の予定調和でない文脈で話を始めると、突然不機嫌になる。先のJOC評議会での森会長の挨拶は実に40分だ。挨拶は通常長くて10分程度ではないか。しかし、そういうおじさんは日本中にたくさんいる。高齢化しても役職者はやめず、妖怪のような存在になっていく。若手は機会を与えられず、人によっては徐々に若手自身も保守化し、益々萎縮し、思考停止する。

政界では、60歳は鼻垂れ小僧、70歳になって一人前などと聞く。

ただ、個人的には「老害」という言葉は好きではない。年齢でひとくくりにする議論も乱暴だし思考停止だ。素晴らしく発想が柔軟で新しいことに挑戦しているご高齢の方もいるし30代でも発想が老け込んでいる若手もいる。

「女性はこうだなんて決めつけは老害です!」という言葉は言語矛盾がある。

內部(Inner) vs 外部(Outsider)

森会長は、組織委員会のなかでは人望が厚いと聞く。


「見ると、発言しなかった人はみんな泣いているんだ。一番こたえたのは武藤さんの言葉だったかな。『ここで会長が辞めれば、5000人の組織はどうなりますか』と詰められました」

発言に対する組織委員会内での批判は、匿名で何人か記者が拾っていたが、大会憲章に明らかに違反しているトップの辞任を內部から要求するという動きはまだない。

組織委員会は、舛添都知事も当時3兆円に及ぶ可能性に言及した予算規模を動かす重要な機構だ。かつて東京都のオリンピック調査チームとして、調査に入った経験があるが、東京都からも国からも独立しその組織ガバナンスは外から見えにくかった。施設の移設問題は、これ以上かき回さないでという現場の感覚はあったと思うが、舛添都知事時代に徹底して検討済として外部からの検討依頼には必ずしも協力的ではなかった印象がある。

プロフィール

安川新一郎

投資家、Great Journey LLC代表、Well-Being for PlanetEarth財団理事。日米マッキンゼー、ソフトバンク社長室長/執行役員、東京都顧問、大阪府市特別参与、内閣官房CIO補佐官 @yasukaw
noteで<安川新一郎 (コンテクスター「構造と文脈で世界はシンプルに理解できる」)>を連載中

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

日経平均は大幅続伸、史上最高値更新 日銀人事が追い

ワールド

豪首相、爆弾脅迫で公邸から一時避難 不審物は見つか

ワールド

米韓、3月9日から合同軍事演習 戦時作戦統制権移管

ワールド

メルツ独首相が訪中、関係深化で李強首相と一致
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
特集:日本人が知らない AI金融の最前線
2026年3月 3日号(2/25発売)

フィンテックの進化と普及で、金融はもっと高速に、もっとカジュアルに

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 2
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    3頭のクマがスキー客を猛追...ゲレンデで撮影された…
  • 5
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 6
    最高裁はなぜ「今回は」止めた?...トランプ関税を違…
  • 7
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 8
    【クイズ】サメによる襲撃事件が最も多い国はどこ?
  • 9
    「IKEAも動いた...」ネグレクトされた子猿パンチと「…
  • 10
    「極めて危険」──ゼレンスキー、ロシアにおける北朝…
  • 1
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より日本の「100%就職率」を選ぶ若者たち
  • 2
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医師がすすめる意外な健康習慣
  • 3
    命は長し、働け女たち――88歳「働くばあさん」が説く高齢期の「4つの覚悟」
  • 4
    「水道水」が筋トレの成果を左右する...私たちの体に…
  • 5
    「#ジェームズ・ボンドを忘れろ」――MI6初の女性長官…
  • 6
    カビが植物に感染するメカニズムに新発見、硬い表面…
  • 7
    海外(特に日本)移住したい中国人が増えている理由.…
  • 8
    100万人が死傷、街には戦場帰りの元囚人兵...出口な…
  • 9
    米国の中国依存が低下、台湾からの輸入が上回る
  • 10
    ロシアに蔓延する「戦争疲れ」がプーチンの立場を揺…
  • 1
    【クイズ】致死率50~75%...インドで感染拡大「ニパウイルス」の感染源となる動物は?
  • 2
    ウクライナ戦闘機「F-16」がロシア軍「シャヘド」を空中爆破...地上から撮影の「レア映像」を公開
  • 3
    高市積極財政にアメリカが慌てる理由
  • 4
    台湾侵攻「失敗」の大きすぎる代償
  • 5
    「最恐」恐竜T・レックスの定説を覆す新研究が
  • 6
    セーターが消えた冬 ── 暖かさの主戦場が「インナー」…
  • 7
    イースター島の先住民から資源を略奪、島を「生きた…
  • 8
    「ヘル・コリア」から日本へ7万人 ── 大企業の高給より…
  • 9
    中国、パナマ運河の港湾喪失でパナマに報復──トラン…
  • 10
    アルコールは血糖値を下げる...「脳と血管を守る」医…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story