
パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
ピエールエルメの圧倒的なパワーと日本の関係

食べることが大好きな私は、常に美味しいものを探して歩いている感じなのですが、食べ物にも時代の潮流というか、流行というものはあるわけで、パリにいるからには、パリならではの美味しいものを食べておきたい・・少なくとも、知りたいという気持ちが大きいです。
個人的な好みは別としても、美味しいもの、パリにおける食文化の潮流を知るのには、ギャラリーラファイエットグルメの様子をうかがってみるのが、とりあえずは手っ取り早いような気がして、近くに行くことがあれば、必ず寄ってみるようにしています。美味しいもの好きの私にとっては、まさに、テンション爆上がりになる場所です。
ギャラリーラファイエットグルメを入ると地上階の入り口から最も近いエリアは、名だたるパティシエやショコラティエが勢ぞろいしていて、いつも多くの人で賑わっています。ピエールエルメがその入り口正面のまさに特等地にお店を構えるようになったのは、いつからだったのか?もう記憶にもないくらいですが、一時は、その正面入り口の常設のお店に加えて、その向かいの仮設店(現在・人気急上昇の注目店が期間限定で入れ替わる)のスペースにまでピエールエルメがチョコレートを全面に展開していたことまであり、ここまでピエールエルメ?が征服してる?と驚いたことさえありました。(現在は、COOKIDICTIONというアメリカンクッキーのお店が入っています)
先日、久しぶりにギャラリーラファイエットグルメに行ってみると、相変わらずの人気のピエールエルメのショーケースには、見たことがなかったスイーツがチラホラ目に入ってきて、お店の人に新製品はどれですか?と聞いてみると、店員さんは、待ってましたとばかりに、「これがちょうど、昨日は行ってきたばかりのもので、そのとなりがその数日前に入ってきたもので・・」と嬉しそうに説明してくれました。そうなのです。ピエールエルメは今や立派な高級パティスリーに成長したものの、とにかく常に新しいものを追い求めていく姿勢とそのパワーが並外れていて、ちょっと商業的には、日本のどんどん新製品が出てくる感じに似ています。
パリはファッションからのイメージもあるのか?常に新しいものがどんどん生まれる場所というイメージがあるものの、実は、食文化に関しては、かなり保守的な嗜好の人も多く、日本のように常に新しい商品(食品)が登場しているわけではありません。近年はそれでも、ずいぶん変わって、新しいものを見かけるようにもなりましたが、私がパリに来た当初などは、「フランス人って、なんで同じものばかり食べていて平気なんだろう?」とゲンナリしたこともあったくらいです。
ちょっと、大げさな言い方をすれば、食文化において、フランスでも、どんどん新製品を生み出して発表していく感じに変化してきたことは、彼がその一部の役割を担っているのでは?と思わないこともありません。
ピエールエルメが始めたヴィエノワズリー
消費者がどんなものを求めているか?ということはもちろんのこと、ピエールエルメのやり方を見ていると、もはや、それを彼自身が創り出し、牽引して、消費者を引っ張っているような気もします。消費者にとっては、そんな一流のお店が一か所に集まってくれているラファイエットグルメのような場所は、大変、楽しい場所なのですが、そこに軒を連ねるお店の面々にとっては、ある意味、残酷な場所でもあります。人気が停滞すれば、どんな老舗であっても撤退を余儀なくされる(どんな業種でも同じことだとは思いますが・・)シビアな世界でもあります。わりと最近、スイーツのエリアでも入れ替わりがあったばかり・・そして、店内の賑わいぶりを見ていると、ピエールエルメには、常に行列が絶えないにもかかわらず、店員さんが暇そうに、突っ立っている・・そんなお店もあります。
そんな中、ピエールエルメは、最初は期間限定として、同店および、お店の外のスペースを使って、クロワッサン、パンオショコラ、クイニーアマンなどのヴィエノワズリーを大々的に発売し始め、また新たな波を起こし始めています。クロワッサンにしてもピエールエルメの看板的な存在であるイスパハンのフレーバーのもの、今、人気沸騰中のピスタチオなどを使ったものなど魅力的なものが並んでいます。今やケーキ類に関して言えば、小さいものでも1個10ユーロ以上があたりまえの彼のメゾンで(小さいマカロンは1個 2.9ユーロ)、ケーキ1個に10ユーロ??と腰が引けてしまう人でもケーキなどよりは、低価格帯のクロワッサンやパンオショコラ( 2.8ユーロから4ユーロ)なら、なんとか、手が出しやすいという客層もごっそり獲得しています。
ひと月ほど前に行ったときには、それでも、そこまで大々的ではなかったのですが、昨日、行ってみたところ、もう大きなクロワッサンのオブジェが店頭にバーン!と出来上がっていて、想像以上のピエールエルメのヴィエノワズリーの成功が見えた気がしました。ところが、それは、他の店舗にも波及したようで、このフロアには数々のスイーツ(ブーランジェリー・パティスリー・ショコラなどなど)が入っているのですが、ヴィエノワズリーを扱うお店が増えたこと!エクレアのお店にまでヴィエノワズリーが置いてあって、ビックリしました。
ピエールエルメが日本からもらったエッセンス
そんな創造的でパワフルなピエールエルメのルーツはどこにあるのか? と考えてみれば、もちろん、彼自身が若い頃から持っていた創造的かつ独創的な部分が大きいと思うのですが、その彼の本来持つものにエッセンスを与えたのは日本なのではないか?と思っています。
ピエールエルメはアルザスにある4世代にわたって続くパティスリー・ブーランジェリーに生まれました。ふつうであるならば、そのまま家業を継いでいくものと思われていたところ、彼は14歳でルノートルに師事し、自分のキャリアをスタートさせます。その後、ベルギーのカールトンホテル、ルクセンブルグのインターコンチネンタルホテルのパティシエを務めた後、フォションパリに入社、ここで、彼はこれまでフォションでは一辺倒だったペストリーやマカロンにおける独自のフレーバーコンビネーションを開発、その後、ラデュレ(シャンゼリゼ店)の立ち上げに加わったのち、ピエールエルメパリを設立。彼は独自の高級パティスリーメゾン構想をスタートさせました。
しかし、当時の彼は現在ほどには著名でもなく、パリには、条件の合う店舗が見つからず、なんと彼は1998年東京のホテルニューオータニで最初の店舗をオープンさせました。ここからが彼の本格的な日本との関わりがスタートします。当初、日本に行ったばかりの頃は、彼の両親はあまり快く思っていなかったようで、たまに母親と電話で話しても、日本での仕事については、お互いに話をすることはあまりなく、「元気にしているの?」とか、「少しは痩せたの?」とか、そんな話ばかりだったそうです。そんな話を懐かしそうに語るインタビュー番組を見たことがあります。
今、現在の彼の事業の進め方、商品の売り方、スピード感、宣伝方法、大胆さ、パッケージのプレゼンテーションなどを見ていると、彼には日本で学んだエッセンスが非常に活かされているな・・日本のやり方・・日本に通ずるものがあるな・・と思う部分が多々見受けられます。これまでのフランスの彼ほどのグランメゾンであったならば、もっと泰然と「これがうちのやり方だ!」みたいな伝統的な商品だけでふんぞり返っている(失礼!)ようなところがあったと思うのですが、彼は、創造・開拓の姿勢を弱めるどころか、どんどんパワーアップしています。そこに、これまでふんぞり返っていたグランメゾンもお尻に火が付き始めている・・そんな感じです。
また、エッセンスでいえば、実際に彼がスイーツに使っているエッセンスには、抹茶、ゆず、小豆、わさび、黒ゴマなどを積極的に取り入れてもいます。今ではMatcha(抹茶)やYUZU(ゆず)などはフランスでもめずらしくないフレーバーになりましたが、このような食材がフランスに浸透したのも、ピエールエルメがその役割の一端を担っている気もします。他の食品やメーカーなどでも流行りとなれば、遠慮会釈なく、まるで自分が開発したかのごとく取り入れ、ある日、アイスクリームのお店でフランス人の店員さんから、「YUZUというのはね、レモンの一種でね・・」とトクトクと説明された時には、参りました。
しかし、とどまるところを知らないかに見えるピエールエルメには、その商品そのものだけでなく、彼の生み出すもの、商売の仕方などにどこか日本のエッセンスを感じずにはいられず、どこか親しみを感じてしまう・・そんな気持ちが私にはあるのです。

- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR