
イタリア事情斜め読み
メローニ政権の軌跡と高市新総裁との共鳴:保守派女性リーダーの新時代

| 家族第一主義と伝統的価値観の再興
2022年10月22日、ジョルジャ・メローニがイタリア初の女性首相として就任した瞬間、イタリア政治史における重要な転換点が訪れた。右派政党「イタリアの同胞」を中心とした連立政権を率いることとなったメローニ首相は、今年10月で丸3年が経過しようとしている。この3年という期間は、イタリアの政治文化においては決して当たり前のことではない。むしろ、それは歴史的な偉業と言えるかもしれない。
イタリアでは首相の任期に定められた期間は存在しない。首相は任命されてから解任されるまで、下院で信任を受け続ける限り、その職にとどまることができる。しかし現実には、イタリアは首相が頻繁に交代し、政権が長期間安定しないことで知られている。
この現象は議会制民主主義の特徴、多党制による連立政権の不安定性、そして歴史的な政治的混乱や文化的要因が複雑に絡み合った結果である。政党間の調整が難しく、議会内での支持を維持することが極めて困難なため、政権が短期間で変わり、長期的な政権運営が実現しにくい構造的な問題を抱えている。
メローニ首相が政権の座に就いて以来、イタリアは保守的価値観に基づく大胆な改革の時代を迎えている。戦後初の女性首相として、そして右派政党「イタリアの同胞」を率いる指導者として、メローニは就任当初から国内外の注目を集めてきた。彼女の政権が掲げたマニフェストは多岐にわたり、経済改革から移民政策、社会福祉に至るまで、イタリア社会の根幹に関わる領域での変革を約束するものだった。
興味深いことに、このメローニ首相の政治姿勢は、日本の保守派女性リーダーである高市早苗氏と多くの共通点を持っている。両者を比較することで、現代の保守派女性リーダーシップの本質が浮かび上がってくる。
メローニ政権が最も力を注いできた分野の一つが、家族支援と少子化対策である。イタリアは欧州の中でも特に深刻な少子高齢化に直面しており、この問題への対応は待ったなしの状況にあった。政権は家族手当の大幅な増額を実現し、特に中低所得世帯への支援を手厚くした。育児休暇制度の拡充や育児支援施設の整備も進められ、
仕事と家庭の両立を支援する環境づくりが着実に進んでいる。メローニ首相は「家族第一主義」を掲げ、家族を社会の最小単位として、その価値を守り育てることが国全体の安定と発展に不可欠だと強調している。この立場は、メローニ首相がイタリアの保守派の中でも圧倒的な支持を受ける要因の一つである。
高市氏もまた、家庭を守ることが社会全体の安定につながるという強い信念を持ち、家族支援政策を積極的に推進している。特に少子化対策に力を入れ、企業や社会全体における子育て支援を強化するための制度改革に取り組んできた。高市氏は日本の保守派にとって象徴的な存在であり、その政策もまた「家庭の重要性」を強調している。
国家の未来を築くためには家庭が最も基本的な単位であるという視点を持ち続けており、この点でメローニ首相と完全に一致している。両者とも、伝統的な家族観を現代社会の文脈で再定義し、実効性のある政策に落とし込もうとしている点で共通している。
経済政策においては、メローニ政権の中間層への減税が大きな目玉となった。年収約1万5000ユーロから4万ユーロの範囲に位置する中間所得層を重点的にターゲットとし、所得税率の見直しを断行した。この改革により、中間層の家庭の可処分所得が増加し、消費活動の活性化が期待されている。
同時に、企業の競争力強化を目的とした法人税率の引き下げも実施された。特に中小企業にとっては税負担が大きく軽減され、国内産業の活性化に寄与している。労働市場改革も並行して進められ、雇用者に対する社会保障費や給与税の軽減措置が講じられた。これにより企業の雇用意欲が高まり、若年層の失業問題への対策として機能することが期待されている。税制改革全体の実行率は約70%と評価されており、おおむね順調に進展している。
| 国家主権の強化と政策実行力
移民政策については、メローニ政権の最も強硬な姿勢が表れている分野である。不法移民や難民受け入れに対する規制の強化が進められ、移民審査基準の厳格化や不法滞在者の強制送還を加速する措置が盛り込まれた法案が可決された。
地中海を越えてイタリアに到達する難民や移民に対しては受け入れの厳格化が推進され、救助活動に参加するNGOやボランティア団体にも規制が強化されている。メローニ首相は、イタリア国民の利益を最優先にした外交政策を展開し、欧州連合に対しても過度な規制や財政的負担に反発し、イタリアの国家主権を強化することを掲げている。移民政策の実行率は約75%と評価されており、法的枠組みの整備は着実に進んでいる。
高市氏もまた、日本の外交・安全保障政策において強い国家主義的立場を取っている。特に中国や北朝鮮に対する強硬な対応を提案し、自衛隊の強化や日米同盟のさらなる強化を訴えてきた。彼女は、日本の独立性を守るためには積極的な防衛政策が不可欠だと考えており、この点でもメローニ首相の国家主権重視の姿勢と共鳴している。
両者とも、グローバリズムに対して一定の距離を置き、自国の利益と伝統的価値観を優先する姿勢を明確にしている。
公共財政の健全化も重要な政策課題である。メローニ政権は財政赤字の削減と公共支出の効率化を掲げ、無駄な支出の削減に取り組んできた。財政規律を守るための取り組みは一定の成果を上げており、実行率は約80%と比較的高い水準にある。
エネルギー政策と環境保護の分野では、再生可能エネルギーの普及促進が進められ、補助金や税制優遇措置の導入により、2030年までの温室効果ガス排出削減目標の達成を目指している。この分野の実行率は約70%であり、EUとの連携を通じて着実に進展している。
治安対策においては、メローニ政権の成果が最も顕著に表れている。犯罪の取り締まり強化、警察力の増強、法的措置の厳格化が進められ、特に都市部での治安維持に力が注がれている。実行率は約85%と高く評価されており、公共の安全が高まったとの評価も聞かれる。
メローニ首相と高市氏の共通点は、政治の中で女性として確立されたリーダーシップにも見られる。メローニ首相は長年にわたる政治活動を経て、男性中心の政治の中で女性としての強さと独自性を示し、保守派の中でも最も影響力のある政治家の一人として確立された。
高市氏も、経済産業大臣を務めた際には日本の経済政策において積極的な役割を果たし、その後も自民党内で重要なポジションを占める存在となった。女性としての立場を前面に出しつつ、政策実現のために戦ってきた姿勢は、保守的な価値観を掲げる多くの支持者にとって大きな安心感を与えている。
外交面では、メローニ政権はEU内でのイタリアの立場強化、NATOとの連携深化、アフリカ諸国との関係強化など、多方面での成果を見せている。特にウクライナ情勢を受けたNATO内での積極的な役割は、イタリアの国際的プレゼンスを高めることに貢献している。
総合的に見て、メローニ政権のマニフェスト実行率は約70%から80%の範囲にあると評価できる。税制改革や治安強化では目覚ましい成果を上げている一方で、家族支援政策の実行率は約60%、環境政策は約70%と、長期的な取り組みが必要な分野では引き続き努力が求められている。
メローニ首相と高市氏という二人の保守派女性リーダーは、それぞれの国において伝統的価値観を守りつつ、現代の複雑な課題に対応するという困難な舵取りを続けている。家族の重要性の強調、国家主権の尊重、強いリーダーシップの発揮という共通点は、今後の保守派政治の方向性を示唆している。
両者のリーダーシップは、女性ならではの視点を生かした政策運営によって、各国の保守派にとって重要な指針を示し続けるだろう。

- ヴィズマーラ恵子
イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie