
ベトナムと日本人
ハノイの文廟(ヴァンミウ)|ベトナム最古の大学と教育の象徴を訪ねて
千年の都に輝く「知の聖地」
文廟の入り口門。海外からの観光客が多い。
外門をくぐるとさらに門が広がる。
ハノイの中心、古木の並木に囲まれた静かな一角に建つ文廟(ヴァンミウ)。朱塗りの門をくぐると、池や回廊が整然と広がり、古都ハノイらしい落ち着いた空気が漂う。ここは1070年、李朝の時代に建立されたベトナム最古の大学であり、孔子を祀る学問の聖地として知られている。
当時のベトナムは中国文化の影響を受けており、文廟の創建もまた「知こそ国を治める力」という儒教思想に基づいていた。王族や貴族がここで経書を学び、後に国家の要職を担っていったのだ。
王族の学び舎から、国民の誇りへ

1076年には隣接して「国子監(コック・トゥ・ザーム)」が設立され、正式な教育機関としての役割を果たすようになった。ここでは、身分に関わらず才能ある者が試験を受け、官僚として登用される科挙制度が導入された。学問によって未来を切り開くこの仕組みは、数百年にわたってベトナム社会を支える知の伝統を築いた。
境内に並ぶ82基の石碑には、合格した博士たちの名前と出身地が刻まれている。石碑の上に座る亀は「長寿と知恵の象徴」とされ、受験生たちはその頭をなでながら「努力すれば夢は叶う」と祈る。これらの博士碑は1994年、ユネスコ世界記憶遺産に登録され、学問を尊ぶベトナムの精神を世界に伝える貴重な遺産となった。
受験生の祈りが集う現代の文廟

多くの学生達のグループがお参りに来ています。
今日の文廟は、単なる歴史的建築物ではない。旧正月明けには、全国から学生やその家族が訪れ、学業成就や進学祈願を行う。ベトナムでは子どもの学力が家族の誇りと社会的評価に直結するため、「文廟の神様に祈る」ことは今も多くの家庭で特別な意味を持つ。
ベトナムの書道は"儒の教え"に根ざしている。文廟では今も、筆を通して学問と礼節を重んじる心が受け継がれている。
孔子像の前で合掌する若者たちの姿は、千年前の学徒たちと何ら変わらない。「知識を積み、努力を重ねることが人を成長させる」という信念が、この国の教育文化の根幹に今も息づいている。
歴史と未来を結ぶ"生きた文化遺産"

文廟の敷地には、五つの中庭が一直線に並び、訪れる人々は門を通るたびに心を落ち着かせていく構造になっている。静寂の中に響く鳥の声や、風に揺れる蓮の葉が、時の流れを超えた安らぎを与えてくれる。

近年では文化イベントや卒業式の記念撮影にも使われ、若者たちの門出を祝う場所としても親しまれている。古代の知の殿堂は、今や現代の人々をつなぐ"生きた文化空間"へと姿を変えているのだ。
文廟を歩いてみよう
ハノイを訪れるなら、ぜひ文廟を歩いてみてほしい。そこにはベトナムの千年を超えて受け継がれてきた「知への敬意」と「学びへの情熱」が、静かに、しかし確かに息づいている。
▪️本記事の執筆者・ヨシヒロミウラは、
ベトナムおよび東南アジアを軸に、社会・経済・文化の変化についての考察を
個人サイト yoshihiromiura.comにて継続的に発信しています。

- ヨシヒロミウラ
北海道出身。ベトナム在住。武蔵大学経済学部経営学科卒業(マーケティング)。日本とベトナムを行き来する食、教育、人材等のビジネスの現場に関わりながら、現在進行形のベトナム社会を主なフィールドとし、アジア都市の経済・制度・文化の相互作用を観察し、思考、日本語で記録している。
個人ブログ:yoshihiromiura.com
X:@ihiro_x






















































