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パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです

RIKAママ|フランス

フランスの「全てを封鎖せよ!」デモ動員と今後の行方

ここ一年ほどの間に4人も主が代わっている首相官邸    筆者撮影

今回のフランスの「全てを封鎖せよ!」と銘打ったデモは、8月半ば過ぎ頃から呼びかけが始まった、ざっくりというと、政府に抗議するデモで、3兆3,030億ユーロ(INSEE 国立統計経済研究所発表)という莫大な公的債務を抱えたフランス政府が「このままでよいわけはない・・」と、来年度の予算440億ユーロの歳出削減を掲げた予算案が発端となっています。

このフランスの債務はGDP(国民総生産)の113.7%に相当し、フランスの公的債務曲線は上昇し続けており、この20年間でその額は3倍以上にも膨れ上がり、さらにこのペースは加速の一途を辿っています。特にマクロン大統領が就任した2017年から2024年の5年間だけでも1兆億ユーロ以上増加しています。

この原因のひとつとして挙げられるのは、債務返済コストが雪だるま式に増えているということと、また、短期的な予算調整に加えて、何よりも必要なのは、公共支出がGDPの65%を占めているといわれるフランスの社会経済モデル・構造改革であることが何よりも問題なのです。

そこで政府が打ち出している歳出削減には、この公共支出を控える内容(年金支給額の凍結や2日間の祝日返上などなど)が含まれているわけで、そもそもが社会保障の手厚いフランスだからこそ起こる国民の反発であり、そもそも権利の主張に関しては、とことん闘うフランス人が既存の権利を侵害され、剥奪されることに黙っているはずはないのです。

しかし、今回のデモは、そんなに単純な話でもなく、議会の過半数を失った現政権が強引なカタチで法案を通そうとする政治の進めかたへの反発が蓄積されたものが、渦巻いて、爆発しようとしている・・そんな感じです。しかし、言ってみれば、9月10日に行われた大規模デモと呼ばれているデモは、おそらくまだほんの序章に過ぎず、デモが日常茶飯事のフランスのデモからしたら、たしかに「全てを封鎖せよ!」というネーミングは勇ましいものの、動員数からしたら、20万人程度、過去の、例えば、年金改革問題で定年が62歳から64歳に引き上げられるという採決に憲法49.3条(議会の採決なしに首相の権限において、採択する法律)を強行したときの大規模デモなどは、それが発表されたと同時にコンコルド広場は抗議の人で埋め尽くされ、実際のデモとなれば、350万人を動員し、パリだけでも1番で140ヶ所の炎が立ち上るという大惨事になり、また、これがとても長い間、続いたことを考えれば、まだまだ序の口であるともいえます。

なので、今回の9月10日は、この1日だけではとてもおさまるはずもなく、その後、何日も連続して続いているということもないかわりに次回のデモは9月18日という予定が決まっていて、ある程度、計画的?ではあります。

議会の過半数を失っているのは、日本の政治も同じで、似たところがあるようにも思いますが、フランスと日本は政治のシステムが異なる(フランスは大統領制であると同時に首相も存在し、主に大統領は外交、軍事。大統領が首相を任命し、その首相が国政を行います)こともあり、余計に日本人にはわかりづらいかもしれません。しかし、国政は首相が行うとはいえ、首相は大統領とともに国政を担っていくわけで、過半数を得ていない国民議会の上に立つ首相は議会と大統領との間の板挟みになることになります。

今回の「全てを封鎖せよ!」のデモが呼び掛けられたのちに、フランソワ・バイルー前首相は、予算案を内閣信任投票を持って、判断を仰ぐと発表し、これでは、自爆行為だと大方の予想はされていましたが、予想どおりに辞任が決定。昨年の末にわずか3ヶ月ほどで終わったバルニエ政権が崩壊したばかりの次の首相が約9ヶ月で転覆。いずれも予算案が発端となっています。政情不安を恐れて、マクロン大統領は、今回は24時間もたたないうちに次期首相を任命し、皮肉なことに9月10日、この「全てを破壊せよ!」デモの当日に新首相が就任しています。

9月10日の「全てを封鎖せよ!」のデモは・・

今回の「全てを封鎖せよ!」のデモに際して、政府は8万人の警察官、憲兵隊を一日中配置。約30機のヘリコプターやドローン、放水車、装甲車を配備し、デモに備えていましたが、それでもけっこうな惨事があちこちで起こりました。シャトレ・レアールの欧州一の集客数を誇るというコマーシャルセンターは閉鎖され、駅も一時、ブロック状態。また、パリ北駅にも約1,000人の人が侵入しようとしたところを警察が措置、多くの環状線道路等の一部がブロック。

また、今回のデモの特徴的なところは、比較的若者が多かったことで、多くの高校が封鎖。国民教育相は約100校の学校が妨害され27校が封鎖され、主要な高校組合であるリセ組合は、3,700校の高校のうち150校がストライキを宣言。

そして、各労働組合によると約30の美術館、モニュメント、公共サービスが終日または1部中断されました。これにはルーブル美術館、オルセー美術館、パリ・ピカソ美術館、パリ国立公文書館、ヴァンセンヌ城などが含まれていました。

また、もっとも今回、象徴的に取り上げられたのは、パリ・シャトレ・レアール地区で起こったデモ隊と警察官の衝突で近隣のレストランで火災が起こってしまったことで、この一般の店舗から炎が立ち上る映像が繰り返し流されていましたが、この出火原因はどうやら、警察が放った催涙ガス弾が原因だったことが判明しています。しかし、捜査により、当時の催涙ガス弾の使用が正当であったことが証明されれば、警察官は刑事責任は問われないなどと発表されています。いずれにせよ、レストランに対しては、捜査結果に関わらず、国から賠償が支払われるようです。

このようなデモによる破壊行為(今回は破壊行為ではありませんでしたが、結果的には破壊された)が多発するため、近年では、大規模なデモが予告されれば、近隣の店舗などは、その時間帯には店舗を閉め、バリケードを貼るような対策も珍しくなくなっています。

この日は、結果、動員数約20万人、逮捕者約400名を出したデモでしたが、内閣崩壊により退任する内務大臣はこの日の終わりに「多数の封鎖行動があったが、麻痺には至らなかった」と「国を封鎖しようとした者たちの敗北」を称賛したという話が伝わってきていますが、これがまた、国民を怒らせる火種になりかねないのでは?と思わないのか?とやはり政府と国民の乖離を感じずにはいられません。

「全てを封鎖せよ!」デモの今後の行方と日本と違うところ

今回のデモでは何の解決にも至っておらず、また、新首相が任命されたばかりで、内閣の組閣もこれからで、しかも、今回もまた、マクロン大統領は、自分の派閥からの人間を首相に任命しており、どちらにしても、議会の中に過半数を獲得している政党がない以上、首相任命権のある大統領の決定には逆らえないのですが、とはいえ、今後の国民議会において、法案(差し迫っては予算案)が極めて通りづらいのは、当然のところ。議席数からいえば、どの政党も過半数をとっていないものの、最大派閥である政党から首相を選べば、それでもまだ何とか、解決の糸口は見える可能性も無きにしも非ずとも思われるのですが、マクロン大統領は、頑としてこれを譲らず、国民議会解散・再選挙の道も選ばず、ましてや、大統領職は絶対に辞任しないと言っている今、一体、どうするつもりなのか?これでは、新しい首相が予算案を提出するたびに、首相退陣、交代が続くことになります。ある報道では、呆れているのか?嫌みなのか?「来年度の予算案が決まるまでに、あと一体、何人の首相が必用か?」などと見出しを打っている報道もあります。

また、議席の過半数を失って以来のマクロン大統領の強引なやり方に、国民が嫌気がさしているというところもあります。そもそも超エリートのマクロン大統領ですが、このフランスの全体からしたら、ごくごく上位の一部である超エリート層への反発に加えて傲慢で強引で彼の人気は国の負債の増大と反比例して、激減。さらに、以前は極右アレルギー・反極右などという層が一定数いたにもかかわらず、ここのところの極右のソフトSNS路線の戦略が功を奏しているのと裏腹に彼の人気は停滞どころか、反マクロンの人が増えています。

そもそも2017年の彼の大統領就任時は、革命を訴え、フランス社会・政治・経済を変えたいと60%以上の支持率を獲得していました。ある程度、強引ではあっても、結果が出てくれば、国民はついてきてくれると信じ、実際に失業率なども回復し始めていた矢先に、パンデミック、ウクライナ戦争が続き、結果は不透明どころか、この多額の債務を負っているという最悪の状態に陥ってしまったというのには、気の毒に感じないものでもありません。

とはいえ、彼の任期が終了する2027年まで、この状態が続くのか?また、続けていいはずもありません。

国会内の過半数をとる政党がなく、政権が不安定なのは、日本と同じとはいえ、大きく違うのは、国民の意識です。フランス人は、抗議活動・デモを行うことをとても誇りに思っているし、国民の義務と思っています。ちょっと過激すぎる風潮がエスカレートしているとはいえ、黙って我慢しないということは時として大切なことでもあります。

この抗議行動を誇りに思っているというのは、かなり底辺の人から、ハイクラスの人に至るまで共通の意識で、私がフランスに来たばかりの頃に夫の友人の家族に会った時に、「フランスの印象は?」と聞かれて、「デモ・ストライキばかり・・」と答えたら、得意満面な顔をして、「そうでしょう!それがフランスなんだ!」と・・。私としては、どちらかといえば、否定的な意味で答えたつもりだったのに、「全然、違うんだわ・・フランス人って・・」と思った記憶があります。

また、わりと最近では、年金改革の際にパリ中のゴミ収集車がストライキを行い、パリのあちこちにゴミの山ができあがり、そのうえ、そのゴミが燃やされるといった悲惨な状況が起こったときのことです。なにかの記事を書くのに、その燃やされたゴミの山の写真を撮りに行ったら、通りかかったおじさんが、得意そうな顔で、「セ・ラ・フランス!(これぞ!フランス!)」と親指を立てながら、私にウィンクをしていったのです。

また、超イケメンで大人気で、フランス史上最年少で首相になったガブリエル・アタル氏などは、「政治家を志したきっかけは、子どもの頃に家族でデモに参加したことだった」と答えていますし、デモはフランス人にとって、非常に大きな意味を持つものなのです。

このデモに参加することで、一般の国民も社会を動かせる!と信じて行動していること、デモとはいえ、政治に参加しているという意識が彼らにはあるということです。

とはいえ、私自身にもついつい黙って我慢してしまうところがあり、日本人を引きずっているのですが、まだ、パリに来て、働き始めたばかりの頃にフランス人の同僚に「日本人は黙って我慢するからいけない!」と言われたことがありました。それは多かれ少なかれ、逆にそれを美徳とするようなところが日本人にはあり、それが日本の文化の一部でもあり、教育でもあるのです。今の日本の政治を考えるとき、そんな日本の教育にも見直す点があるのではないか?とも思います。もちろん、暴力的・破壊的行為は断固反対ではありますが、しかし、自分の意見をしっかり持って、それを主張することは大切なことなのだと思うようになっています。

 

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著者プロフィール
RIKAママ

フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。

ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」

Twitter:@OoieR



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