
パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
フランスがパレスチナ国家承認に踏み切った理由

フランスが今年9月の国連総会に合わせ、パレスチナ国家を承認すると発表してから、そろそろ1週間が経とうとしています。これは少なからず、衝撃的な発表であり、というのも国連加盟国193ヵ国のうち、約144ヵ国がすでに承認しているものの、G7 先進7ヶ国では唯一の国であり、G7の中では孤立してしまいかねないように見えるものでもあったからです。
このマクロン大統領の発表があった日は、トランプ米大統領は、スコットランド滞在中で、この件に関して、「マクロン大統領は良い人間で好きだが、今回の発言には重みがなく、大した影響はない」とコメントしています。
あまり意に介していないというトランプ大統領のコメントとはうらはらに、イスラエル国防相は、「マクロン大統領がパレスチナ国家を承認する意向を示したことは恥ずべき行為であり、テロリズムへの屈服である」と猛烈に批判しています。
しかし、G7では初であるとはいえ、欧州連合(EU)、G20加盟国にまでに拡大して見てみると、カナダ、オーストラリア、スペイン、ルーマニア、スウェーデン、ノルウェー、ポルトガル、アイルランド、ブルガリア、ルクセンブルク、マルタ、ニュージーランドなどは、すでにパレスチナ国家を承認しています。
フランスは、欧州最大規模の600万人のアラブ移民を抱えており、国内の事情は複雑といえば、複雑。この問題に関する国民の関心は高いのです。ハマスでの惨状がテレビのニュースなどで報道されない日はなく、イスラエルの攻撃へ抗議するデモは続いています。
今回のマクロン大統領の発表に対して、右派からは、「テロ国家を承認するのか!」と強い反発の声があがり、左派は「道徳的勝利!」と賛同の意を示しています。
マクロン大統領には、フランスが世界をリードしていく大きな影響力を持つ国であるというところをが多分にあるとは思われますが、その事情は決してシンプルなものではなさそうです。
イスラエル・パレスチナ問題のこれまでのフランスの経緯
しかし、これがフランス国内でさえも驚きの声が上がったのには、当初はフランスが全く異なった動きをしていたことにもあるわけで、マクロン大統領は、2023年10月には、イスラエル国家への無条件の支援を約束しています。
彼はハマスを壊滅させるための国際連合を呼び掛け、イスラエルさえも驚かせたほどでした。1年後の2024年11月、フランス外交は国際刑事裁判所がイスラエル首相に対して発行した国際逮捕状の執行を拒否。イスラエルの首相と元国防大臣は、国際司法裁判所から告発されています。
ところが、2025年4月9日、大統領専用機内で方向転換が起こり、エジプトから帰国したマクロン大統領は、「今後、数ヶ月以内にフランスはパレスチナ国家を承認する」と発表したのです。
この時は、彼はパレスチナ国家承認にあたって、「ハマスの非武装化」、「イスラエル人人質の解放」、「パレスチナ自治政府の刷新」などのいくつかの条件を設定していました。
マクロン大統領の最近の公約を批判する人々は、これらの前提条件はまだ満たされていないと主張しています。イスラエルの攻撃により、かなり弱体化したとはいえ、ハマスは依然として公式にはガザ地区を統治しており、49人の人質を拘束しています。
しかし、一方では、パレスチナ保健相の発表によれば、2023年10月以降、ガザ地区で5万7千人が死亡しています。
今回のマクロン大統領が発表した「パレスチナ国家承認」を国連に訴えかけ、賛同の和を拡げていく動きは、フランスとサウジアラビアが主導しています。特に今年の初めごろからだったか、マクロン大統領がサウジアラビアと緊密にコンタクトを取り始めたことに、なぜ?サウジアラビア?と思っていましたが、これだったのです。
フランスとサウジアラビアが主導するこの会議は、当初、国家元首や政府首脳ら最高レベルの幹部を集めて6月に開催される予定でしたが、6月13日にイスラエルがイランに対しての攻撃を開始したことで延期。このまま暗礁に乗り上げるかと思いきや、今回のマクロン大統領の発表により、再び論争が巻き起こりました。
フランスはこの会議に先立ち、重要な外交活動を行うために、いくつかのグループを結成し、これまでパレスチナ問題に真剣に取り組んでこなかった国々、G7はもちろんのこと、特にインドやインドネシアといったパレスチナ地域外の国々、世界中の国々に対し、パレスチナを承認する意思を表明するように呼び掛けています。
マクロン大統領がこの中で、まず大きなターゲットとして思い切って踏み切るように説得していたのは英国で、この成果が実ったのか、英国は、「イスラエルがパレスチナ自治区ガザでの軍事行動を停止しない限り」という条件付きではあるものの、「パレスチナ国家の承認」を発表しています。
フランスがパレスチナ国家承認に舵をとった理由
マクロン大統領の言うことは、極めて正論であることが多く、むしろ、それが正論すぎて、お花畑などと揶揄されることもありますが、この一つ間違えば、G7という強国の中で孤立し、アメリカさえも敵に回しかねないこの決断にはリスクもあり、それをやるからには、なにも計算がなかったわけではなさそうです。
マクロン大統領は他のG7の国々も同調させようとしていますが、それぞれの国の事情は異なり、容易なものではありません。しかし、この決断は、フランスにとってはイスラエルとの関係において、失うものがほとんどなく、結局のところ、イスラエルとはほとんど関係ないためとの見方もあります。「イスラエルはヨルダン川西岸地区を併合することはできますが、それはフランスに対する反動というよりは、それは恐らく彼らの深い願望の実現である」と見ています。
一方、フランスは、「イメージと南半球諸国との関係」の面で得るものは大きく、特にサウジアラビア諸国に対する影響力を獲得したいと考えていると言われています。
これはすでにアラブ諸国の声明に反映されており、例えばクウェートは「他のすべての国も同様の措置をとる必要がある」と強調し、イスラエルとパレスチナのイスラム主義組織ハマスの仲介役を務めるカタールは「地域における公正かつ包括的な平和の可能性を高めることに貢献する前向きな展開」とこの動きを歓迎しています。
フランスはある意味、外交上、パレスチナ国家の承認によって、否定的な結果よりも肯定的な結果を多く期待できると見ているのです。
このような思惑があるとはいえ、「何もしないという選択肢はない!」、「フランスは、公正で永続的な平和を達成する唯一の方法は国際法を遵守することであるという原則を確立した!」とし、G7の中で孤立してしまうどころか、彼らを動かし、世界に影響力を持つ偉大な国のひとつになる道を進もうとしている気がします。
それに引き換え、地理的なこともあるとはいえ、G7に加わっているというのに、全く影の薄い日本に寂しさを感じずにはいられません。

- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
Twitter:@OoieR