
パリのカフェのテラスから〜 フランスって、ホントはこんなところです
禁煙スペースの拡大と子どもと大人の世界の棲み分け

6月28日付け官報に掲載された法令によれば、6月29日から、フランス全土におけるビーチ、公共の公園、庭園、バス停、また、図書館、スポーツ施設、学校、未成年者を受け入れる施設の周囲10メートル以内での喫煙が禁止されます。特に、これからバカンスシーズンに突入するタイミングでは、このビーチにおける禁煙措置については、注力されるものと見られています。この禁止令は、主に子どもたちを受動喫煙から守ることを目的としたもので、カフェやレストランのテラスには適用されず、電子タバコについても触れられていません。この禁止令に従わない場合は、最終的には第4級の罰金、つまり135ユーロが科せられる可能性がありますが、同時に当面の間は、教育期間を設けるとしています。
2032年までにタバコのない世代という課題に取り組む
私がフランスに来た当初、驚いたのは、とにかく喫煙率が高く、特に歩きタバコをしている人が多いことでした。それは、受動喫煙云々はもちろんのこと、子どもを連れて歩いていたりする場合、まず歩いていて危険で、あまり周囲のことをうるさく思わない私でさえも、「あっぶないな~」と思うこともしばしば、ありました。
しかし、ここ最近では、目に見えて、喫煙者は減少。歩きタバコをしている人には滅多にお目にかからなくなったし、街中でタバコを吸っている人を見かけることは極端に減った印象です。それは、人々の健康への意識が高まっていることもあるとは思いますが、一番の理由は、タバコの価格が異様に高騰したことにあるような気がします。
毎年、少しずつではありますが、確実に高騰しているタバコの1箱の価格は、2025年1月からは、1箱 約 11.50ユーロ(現在のレートだと約2,000円)で、日常的にタバコを吸うことは、庶民の経済を圧迫するものになったと言えます。
フランス薬物中毒動向観測所(OFDT)によれば、フランスでは喫煙率が着実に減少しており、「2000年以降で最低の喫煙率」を記録しています。OFDTによると、2023年に18歳から75歳までの成人のうち毎日喫煙していると答えた人は4分の1未満でした。喫煙は年間、75,000人の死を引き起こし、社会に年間1,560億ユーロの損失をもたらしています。また、公式統計?によると、フランスでは、受動喫煙により、年間3,000人から5,000人が死亡しています。今回の喫煙に関する禁止法令には、未成年者に対するタバコや電子タバコ製品の販売に対する罰則も強化され、現在では、第5級犯罪に該当し、罰金200ユーロが科せられることになります。
そもそも罰金のない規則は規則ではないようなところのあるフランスでは、法令は罰金、罰則とともにある気がします。
しかし、これだけすでに減少している喫煙者に対しての喫煙場所を特定しての禁止法令を設けるということは、これは、さらに、「タバコのない世界」を目指していることによるようです。
とはいえ、この禁煙に対する動きは、たまに日本に行くと、いつの間にか、街中からタバコがほぼほぼ消えているようで、日本での、その徹底ぶりには驚かされます。パリでは、街中には、やたらとゴミ箱がありますが(逆に日本には、どうして、こんなにゴミ箱がないのに、街がきれいなんだろう?と驚きますが・・)、そのゴミ箱には、ご丁寧にタバコの吸い殻を消すプレートのようなものがついていたり、灰皿のようなものがついている場合も少なくありません。恐らく、今回の子どもの居うる場所での喫煙禁止令が出たとしても、日本のように街中から一切のタバコが消えた感じ・・にはならないような気がします。
今回の法令から感じる子どもの場所と大人の場所の棲み分け
特に、今回の法令では、その第一の目的は、「子どもの受動喫煙から守る」ことで、保健相は、「子どもがいるところからタバコは消えなければならない」、「子どもがきれいな空気を吸う権利が始まるところで喫煙の自由は終わる」と語っています。
なにかというと、それぞれの立場の人々が権利をふりかざすフランスらしい言い方ではありますが、これは大人の喫煙する権利も同時に尊重するものであることを示すためにも、カフェやレストランのテラスにはこの法令が及んでいないのかもしれません。また、フランス・ホテル・レストラン協会は、「やみくもな禁止措置は問題を転嫁するだけで、喫煙者と非喫煙者は社交と自由が保たれる最後の場所であるレストランやカフェのテラスでは共存できる」と意向を表明しています。
そもそも、フランスでは、もちろん禁止されているわけではありませんが、大人の場所には、子どもを連れて行かない・・大人の場所と子どもの場所は区別されているという印象があります。バカンス地やファミリーレストラン(ファミレスというものはフランスには、あまりありませんが・・)ならいざ知らず、あまり小さい子どもを連れて、食事には行きません。夜、夫婦で食事に行ったりする場合も子どもは預けて出かけます。日中のカフェやレストランのテラスなどでも、観光客は別としても、そういえば、あまり子どもを見かけることはありません。大人の場所と子どもの場所の棲み分けができている感じがします。
とはいえ、大人が子どもと一緒の時間を過ごさないというわけではなく、これから始まる夏の長いバカンスを見ても、家族でバカンスに出かけ、長い時間を子どもと過ごすのもまた、フランス人で、フランス人はこのバカンスを一年の最大イベントとして捉えているようなところもあります。
こうして見ていくと、ほぼほぼ公共のスペースでの喫煙が許されなくなっている中、カフェやレストランのテラスでは、かろうじて、その場を保っていることを考えれば、フランスにとってのこの場所は、ある意味、特別な存在であるのかもしれません。カフェのテラス席を見ていると、ぼんやり本や新聞を読んでいる人、通りゆく人を眺めている人、そして、一番、多いのは、ものすごい勢いで前のめりになって話しをしている人々です。それぞれが、気ままに自由に時を過ごす場所、そこがカフェの醍醐味でもあり、フランス人のソウルのような気もするのです。
とはいえ、そのうち、これだけ、禁煙の波が拡大していく世の中に育った子どもたちが大人になる頃には、もしかしたら、本当にタバコのない世界がやってくるかもしれません。しかし、急激に全てを排除するのではなく、どこかに砦を残して、共存できる場所を保っていくようなやり方は、フランスらしい気もします。
この法令が施行されたことを昨日のニュースで報じていましたが、これがあまりにショッキングではないことを強調するためか、今ではあたりまえのようになっている飛行機内での喫煙が、かつては、認められていたこととか、屋内のレストランでもあたりまえのようにタバコが吸われていたとか、当時はセンセーショナルであった禁止事項も今となれば、それが認められていたこと自体が驚くようになっている・・と言っていました。
よく、「百害あって一利なし」と言われるタバコですが、そもそも喫煙者と電子タバコ使用者(愛煙家)の3分の1以上は、喫煙量を減らしたいと考えていることは、DNF(喫煙者と電子タバコ使用者協会)の調査でわかっています。
この新たな禁煙スペースの拡大については、フランス人の10人に6人(62%)が公共の場での喫煙のより広範な禁止に賛成していると言います。これは国家タバコ規制プログラム(PNLT)2023~2027で計画された対策の一環です。

- RIKAママ
フランスって、どうしようもない・・と、日々感じながら、どこかに魅力も感じつつ生活している日本人女性。日本で約10年、フランスで17年勤務の後、現在フリー。フランス人とのハーフの娘(1人)を持つママ。東京都出身。
ブログ:「海外で暮らしてみれば・・」
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