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ヴィズマーラ恵子|イタリア

ローマで開催国際観光サミット、イタリアの誇りと課題

パラッツォ・キージ(イタリア首相官邸)公式Youtubeチャンネルよりメローニ首相、世界旅行・観光協議会グローバルサミットで演説

2025年9月28日から30日までの3日間、イタリアの首都ローマは世界中の旅行・観光業界の注目を集める場となる。世界旅行ツーリズム協議会(World Travel & Tourism Council、略称WTTC)が主催する「第25回 世界旅行・観光協議会グローバルサミット(25th WTTC Global Summit)」がこの歴史ある都市で開催されるからだ。

毎年、観光業のリーダーたちが一堂に会し、業界の現状や未来を語り合うこの国際サミットは、イタリアにとっても特別な意味を持つ。

イタリアは観光大国として知られ、世界の観光地ランキングで常に上位に名を連ねる。その中で今回初めてローマがこの重要な会議の開催地となることは、イタリア観光の国際的地位を改めて示すものだ。

首相ジョルジャ・メローニも冒頭の挨拶で、観光がイタリアの経済と文化の基盤であることを強調。観光業はGDPの重要な柱であり、雇用や地域振興にも大きく貢献している。だが、同時にそれは国の誇りと密接に結びつく文化的価値の発信手段でもあるのだ。

イタリアの美しい風景、歴史遺産、そして多彩な文化は世界中の旅行者を魅了してやまない。ローマの古代遺跡やヴェネツィアの運河、トスカーナの田園風景など、多様な観光資源が国内各地に点在している。こうした魅力を守りながら、さらに発展させることがイタリアの政府に課せられた使命だ。

一方でイタリアの観光業は、近年の急速な観光客増加に伴う「オーバーツーリズム」の課題にも直面している。特にローマやヴェネツィア、フィレンツェといった人気都市では、観光客の過密化が住民の生活環境を圧迫し、歴史的建造物への負担も増している。

この問題は、日本の京都や奈良といった観光都市でも同様に見られるため、イタリアだけの課題とは言えないが、その深刻さは特に顕著だ。

WTTCのグローバルサミットでは、このような課題をどう克服し、持続可能な観光を実現するかが主要な議題となる。イタリア政府は観光省を独立した省庁として設置し、観光の戦略的推進を図っている。デジタル化の促進や交通インフラの整備、観光従業員の研修強化など、多角的な取り組みが進められているのも、その一環だ。

さらに、イタリアは地方の観光地活性化にも力を入れている。大都市に集中しがちな観光客を分散させることで、地域経済の均衡ある発展と、過剰な観光地への負担軽減を目指している。
たとえば、アブルッツォ州やマルケ州など、まだ知られていない自然豊かな地方の魅力を世界に発信するプロジェクトも活発化している。

イタリアは世界的なスポーツイベントや国際会議の開催を通じて、観光誘致のチャンスを拡大している。2026年冬季オリンピックのミラノ開催や、UEFA欧州選手権、地中海競技大会など、大規模な国際イベントは多くの観光客を引き寄せる絶好の機会となる。これらは経済効果のみならず、国のイメージ向上にも寄与するため、観光政策の重要な柱だ。

国際サミットは、イタリア観光の未来を見据えた戦略と共に、世界各国の観光業界が直面する共通課題にも光を当てる場となる。特に持続可能性や観光地の質の向上、デジタル技術の活用といったテーマは、どの国にとっても避けて通れない課題である。

今回のローマ開催は、イタリアが観光立国としてのプライドを示しつつ、新たな時代にふさわしい革新的な取り組みを世界に発信する絶好の機会だ。イタリアの誇り高い歴史と文化が、これからも多くの旅行者に感動を与え続けるために、持続可能な観光という未来志向の道筋を切り拓くことが期待されている。

この「第25回 世界旅行・観光協議会グローバルサミット」は、2025年秋のイタリアにおける最大の観光関連イベントであり、今後の世界の観光業界の方向性を左右する重要な節目となる。イタリアはその舞台としてふさわしい場所であり、ローマの歴史と現代が融合するこの街から、新しい観光の未来が世界に向けて発信される。


 

Profile

著者プロフィール
ヴィズマーラ恵子

イタリア・ミラノ郊外在住。イタリア抹茶ストアと日本茶舗を経営・代表取締役社長。和⇄伊語逐次通訳・翻訳・コーディネータガイド。福岡県出身。中学校美術科教師を経て2000年に渡伊。フィレンツェ留学後ミラノに移住。イタリアの最新ニュースを斜め読みし、在住邦人の目線で現地から生の声を綴る。
Twitter:@vismoglie

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