コラム

民主党にとって最悪のシナリオになりつつある予備選

2020年02月27日(木)20時00分

サウスカロライナの予備選でもうひとつ注目されているのが、ロシアと共和党員による選挙妨害の影響だ。

ネバダ州コーカスの前日、サンダースが民主党の指名候補になるようロシアが介入しているという情報をワシントン・ポスト紙が報じた。この記事の後、米情報機関から1カ月ほど前にその情報を得ていたことをサンダース自身が認めた。ロシアの目的がトランプ再選なのかサンダース当選なのかは不明だが、どちらになってもロシアにとって有利だと考えているのは間違いない。

また、トランプに対立する候補が弱すぎる共和党サイドでは予備選そのものをしないと決める州もある。サウスカロライナ州もそのひとつだ。この州の予備選は、所属党には関係なく投票する党を選べる「オープン・プライマリー」だ。それを利用して共和党員らが特定の民主党候補に票を投じ、民主党内部に混乱を与える計画を立てている。

こうした計画の1つ「オペレーション・ケイオス」は、勝利する候補が早々に決まって民主党が一致団結するのを防ぐことが目標だ。2008年と2016年の民主党予備選がそうだったが、予備選が長引けば長引くほど対立候補の支持者の間に怨恨が残る。ここサウスカロライナ州の共和党員が仲間に投票を呼びかけている候補はサンダースだ。

ロシアとトランプを支持する共和党が避けたいのは、中道の民主党候補だ。ここに属するのが、ジョー・バイデン元副大統領、最初の2つの州で善戦した元サウスベンド市長のピート・ブティジェッジ、ミネソタ州選出上院議員のエイミー・クロブチャー、元ニューヨーク市長のマイケル・ブルームバーグだ。

ロシアと共和党が中道の民主党指名候補を避けたがっているのは、トランプによって居場所を失った古くからの共和党員や穏健派が密かに彼らに票を投じる可能性が高いからだ。

ニューハンプシャー、マサチューセッツ、コネチカット、首都ワシントンで筆者が話しを聞いた共和党支持者らは、「(バイデン、ブティジェッジ、クロブチャーのいずれかの名前)が民主党指名候補になったら、トランプではなく、そちらのほうに投票する」と答えた。その中には、穏健派だけでなく、ジョージ・W・ブッシュ支持だったネオコンもいる。その理由は、現政権があまりにも無秩序状態だからだ。それと、古い共和党員たちはロシアの介入とそれを堂々と歓迎するトランプ大統領に強い危機感を持っている。

だが、彼らが口を揃えて言うのは「民主党指名候補が極左のサンダースかウォーレンになったらトランプに票を投じるか、投票に行かないかどちらかにする」である。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結

ワールド

英、中東に戦闘機を移動 地域の安全保障支援へ=スタ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 2
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 3
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されずに「信頼できない人」を見抜く方法
  • 4
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 5
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 6
    構想40年「コッポラの暴走」と話題沸騰...映画『メガ…
  • 7
    逃げて!背後に写り込む「捕食者の目」...可愛いウサ…
  • 8
    「結婚は人生の終着点」...欧米にも広がる非婚化の波…
  • 9
    4年間SNSをやめて気づいた「心を失う人」と「回復で…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 5
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 6
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 7
    ふわふわの「白カビ」に覆われたイチゴを食べても、…
  • 8
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 9
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 10
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 1
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 2
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story