アングル:中東情勢が安保3文書改定に影響も、米軍の関与低下懸念 与党が推移注視
米軍横須賀基地で、原子力空母ジョージ・ワシントンを見つめるトランプ米大統領。2025年10月撮影。REUTERS/Evelyn Hockstein
Tamiyuki Kihara Yoshifumi Takemoto
[東京 3日 ロイター] - 米国とイスラエルによるイランへの軍事攻撃を巡り、日本が進める安全保障3文書の改定、防衛装備移転3原則の緩和という安保政策見直し議論への影響を指摘する声が与党内に出始めた。米国の軍事力が中東に集中することでアジアの抑止力が低下しかねないとの懸念が防衛力強化の動きを後押しする一方、日本製武器が紛争地で拡散するリスクを懸念して装備輸出の拡大には慎重であるべきとの声も聞かれる。中東情勢の緊迫が長期化すれば議論を加速させる要因にも、逆にブレーキにもなり得ることから、与党議員らは事態の推移を注視している。
<「これまで以上のスピード感で」>
「米国が中東情勢にリソースを割く中、東アジアの安全保障に穴が開くのではないか」。米軍が空母2隻を中心とした大規模な軍事力を中東に展開する中、自民党が2日に開いた中東情勢に関する党会合で出席議員から質問が出た。政府代表として出席した外務省幹部は「そうならないよう米側には何度も要請している」と回答。防衛省幹部は「引き続き注意深く米軍の動きをウオッチしていく」と答えたという。
神奈川県によると、少なくともインド太平洋地域を管轄する米海軍第7艦隊所属の原子力空母ジョージ・ワシントンは横須賀基地に寄港している。しかし、在日米軍を含めたアジアのそれ以外の戦力が中東へどの程度投入されているのかは分かっていない。自民の閣僚経験者は「中東情勢が長期化した場合、中国がアジア地域で何らかの行動を起こす可能性がある」と危機感をあらわにする。米国の関与が相対的に薄れれば、東アジアのパワーバランスが崩れ、不測の事態を招きかねないとの懸念があるためだ。
折しも日本は安全保障の大幅な見直しを進めている。国家安全保障戦略を含めた安保3文書を前倒しで年内に改定する方針で、2027年度までの5年間で43兆円を計画していた防衛費はさらに積み増す方向だ。「有事が現実的なものとして伝われば国民感覚として『危ない』という意見が出る。自分の国は自分で守ることへの国民の関心は高まってくるだろう。賛意が増えてくると思う」。自民と連立を組む日本維新の会で外交政策を担う青柳仁士衆院議員は2日、イラン情勢が安保3文書の改定議論に与える影響についてこう述べた。
政府の基本的な防衛政策を位置付ける安保3文書について、自民と維新は昨年10月の連立合意文書に「戦後最も厳しく複雑な戦略環境の変化に伴い」前倒しで改定することを盛り込んだ。2月の衆院選を経て、高市早苗首相(自民党総裁)は文書の年内改定を強調。今後、有識者会議を立ち上げて年末に向けた作業を加速化する構えだ。
長期戦に備える継戦能力の強化、無人機の配備をどう充実させるかなどが論点となる見通しで、高市氏は3月3日の衆院予算委で「我が国の平和と独立は我が国自身が自らの判断と責任で守り抜いていくべきものだ」と強調。「自らの国を自らの手で守る覚悟なき国を誰も助けてくれない。防衛力の抜本的強化をこれまで以上のスピード感で進めていかなければならない」と改めて語った。
<「装備移転が批判招く可能性」>
3文書改定に先駆けて議論が進む装備移転3原則の運用指針の見直しについては、イラン情勢がブレーキになりかねないとの見方が出ている。
現行の指針は、輸出可能な完成装備品を「救難、輸送、警戒、監視、掃海」に限定している。与党はこの「5類型」を撤廃する方針で、自民は「他国との相互運用性を伴う形で同盟国・同志国の抑止力を強化し日本に望ましい安全保障環境を創出することが可能になる」などと説明。殺傷能力がある「武器」の輸出は日本と協定を結ぶ国に限定するほか、現に戦闘が行われていると判断される国への輸出は原則不可とし、国民の理解を得たい考えだ。
ただ、維新関係者は米国のイラン攻撃が国際法の観点から疑問視されていることを認めた上で、「日本製の武器が紛争に使われるというリアルな感覚が国民に出てくれば、『5類型』の撤廃自体が批判を招く可能性がある」と危惧する。
木原稔官房長官は3日の衆院予算委で「責任ある形で管理する観点から個別案件ごとに厳格に審査する。移転後の適正管理が確保される場合に限って(輸出を)認め得る」との立場を改めて表明。「与党の議論も踏まえて責任ある形で移転を管理していく」と理解を求めたものの、前出の維新関係者は「見直しが予定通りに進んだとしても、実際に輸出するまでには時間が必要になるのではないか」と話した。
一方、イラン情勢が見通せない中で根本的な議論の必要性もささやかれ始めた。防衛政策に精通する衆院議員は「もはや装備移転の賛否にとどまっていて許される状況ではない」と述べ、既存の政府与党の方針にとらわれない議論を喚起する必要性を強調した。「世界のリーダーたちはすでに力による支配がスタンダードになっていると認識している。東アジアにおける米国の抑止力が根底から覆っているという前提で、日本も防衛政策を考えなければならない」
(鬼原民幸、竹本能文 編集:久保信博)
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