コラム

トランプ暴露本より「アメリカの本音が分かる」話題の3冊

2018年01月30日(火)11時45分

Houghton Mifflin Harcourt, Simon & Schuster, Random House


20180206cover-150.jpg<ニューズウィーク日本版1月30日発売号(2018年2月6日号)は「世界を読み解くベストセラー40」特集。ニュースでは伝わらない、その国の本音を映し出すのが話題の本。8カ国、計40冊を取り上げたこの特集から、アメリカの記事を転載。暴露本『炎と怒り』でもなく、白人貧困層の思考を描写した『ヒルビリー・エレジー』でもない、注目のベストセラーとは?>

2016年の大統領選を通じて、アメリカの多くの人々が主流(メインストリーム)の新聞やテレビのニュースよりネット上の「フェイクニュース」を信じるようになった。そして結果的に、大統領選で多くの暴言と嘘の発言を繰り返したドナルド・トランプを大統領に選んだ。

これは多くのアメリカ人にとって理解を超える衝撃的な出来事だった。選挙中には、トランプの支持基盤である白人貧困層の思考を描写したJ・D・バンスのノンフィクション『ヒルビリー・エレジー』がベストセラーになり、選挙後には、かつて保守運動の中心的存在だったチャールズ・J・サイクスが、『右派はいかにして正気を失ったのか』という本を刊行した。だが、これらの本は現象の一部を説明しただけだ。

もっと壮大な視点でアメリカ社会を解説するのが、カート・アンダーセンの歴史ノンフィクションファンタジーランドだ。コロンブスがアメリカ大陸に上陸した500年前までさかのぼって根本的な問題に踏み込んでいる。アメリカは、ヨーロッパの白人が移住し始めたときから一貫して「幻想」が支配する国で、トランプ政権の誕生は起こるべくして起きたというものだ。

「何もないところから、計画的に造られた初めての国」というのがアメリカのユニークさだ。先住民はいたものの、ヨーロッパの白人にとっては妄想を自由に膨らませることができる「新世界」だった。

宗教過激派だった清教徒

南米から金と金鉱を強奪したスペインを羨んだイギリスは、現在のアメリカ南部のバージニアで金や宝石を見つける計画を立てた。全く根拠がない妄想だったが、それに魅了されて勇んで故郷を捨てた者がいた。そして「ゴールドなしのゴールドラッシュ」という現象が起こった。

アメリカに最初にやって来た移民たちは、イギリス人の中でも「幻想のために慣れ親しんだもの全てを放棄し、自己をフィクション化した過激主義者」だった。

その後マサチューセッツにやって来た清教徒たちも、違った意味で過激だった。アンダーセンによると清教徒は、「クエーカー教徒を絞首刑にし、カトリックの司教が足を踏み入れたら絞首刑にするという法を可決した」宗教過激派だった。彼らは、既に腐敗したヨーロッパではなく、「新しいイギリス」である北東部ニューイングランドに「新しいエルサレム(聖地)」をつくろうとした。

プロフィール

渡辺由佳里

Yukari Watanabe <Twitter Address https://twitter.com/YukariWatanabe
アメリカ・ボストン在住のエッセイスト、翻訳家。兵庫県生まれ。外資系企業勤務などを経て95年にアメリカに移住。2001年に小説『ノーティアーズ』(新潮社)で小説新潮長篇新人賞受賞。近著に『ベストセラーで読み解く現代アメリカ』(亜紀書房)、『トランプがはじめた21世紀の南北戦争』(晶文社)などがある。翻訳には、レベッカ・ソルニット『それを、真の名で呼ぶならば』(岩波書店)、『グレイトフル・デッドにマーケティングを学ぶ』(日経BP社、日経ビジネス人文庫)、マリア・V スナイダー『毒見師イレーナ』(ハーパーコリンズ)がある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

NY外為市場=ドル下落、9月利下げ観測維持 米ロ首

ビジネス

米国株式市場=まちまち、ダウ一時最高値 ユナイテッ

ワールド

プーチン氏、米エクソン含む外国勢の「サハリン1」権

ワールド

カナダ首相、9月にメキシコ訪問 関税巡り関係強化へ
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
特集:Newsweek Exclusive 昭和100年
2025年8月12日/2025年8月19日号(8/ 5発売)

現代日本に息づく戦争と復興と繁栄の時代を、ニューズウィークはこう伝えた

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    頭部から「黒い触手のような角」が生えたウサギ、コロラド州で報告相次ぐ...衝撃的な写真の正体
  • 4
    債務者救済かモラルハザードか 韓国50兆ウォン債務…
  • 5
    「ゴッホ展 家族がつないだ画家の夢」(東京会場) …
  • 6
    【クイズ】次のうち、「海軍の規模」で世界トップ5に…
  • 7
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 8
    【クイズ】次のうち、「軍事力ランキング」で世界ト…
  • 9
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 10
    【クイズ】アメリカで最も「盗まれた車種」が判明...…
  • 1
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 2
    将来ADHDを発症する「幼少期の兆候」が明らかに?...「就学前後」に気を付けるべきポイント
  • 3
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた「復讐の技術」とは
  • 4
    「笑い声が止まらん...」証明写真でエイリアン化して…
  • 5
    これぞ「天才の発想」...スーツケース片手に長い階段…
  • 6
    「長女の苦しみ」は大人になってからも...心理学者が…
  • 7
    「何これ...」歯医者のX線写真で「鼻」に写り込んだ…
  • 8
    「触ったらどうなるか...」列車をストップさせ、乗客…
  • 9
    産油国イラクで、農家が太陽光発電パネルを続々導入…
  • 10
    輸入医薬品に250%関税――狙いは薬価「引き下げ」と中…
  • 1
    「週4回が理想です」...老化防止に効くマスターベーション、医師が語る熟年世代のセルフケア
  • 2
    こんな症状が出たら「メンタル赤信号」...心療内科医が伝授、「働くための」心とカラダの守り方とは?
  • 3
    「自律神経を強化し、脂肪燃焼を促進する」子供も大人も大好きな5つの食べ物
  • 4
    デカすぎ...母親の骨盤を砕いて生まれてきた「超巨大…
  • 5
    その首輪に書かれていた「8文字」に、誰もが言葉を失…
  • 6
    デンマークの動物園、飼えなくなったペットの寄付を…
  • 7
    ウォーキングだけでは「寝たきり」は防げない──自宅…
  • 8
    山道で鉢合わせ、超至近距離に3頭...ハイイログマの…
  • 9
    イラン人は原爆資料館で大泣きする...日本人が忘れた…
  • 10
    12歳の娘の「初潮パーティー」を阻止した父親の投稿…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story