コラム

トランプ政権、ソマリアのISIS拠点を空爆──対テロ戦略の最新動向

2025年03月07日(金)17時38分
ソマリアのイスラム国系組織の動向

ソマリアの首都 モガディシオ hamza sulub -shutterstock-

<トランプ政権は対テロ政策でも動きを見せ始めた。ソマリア北東部の「イスラム国ソマリア州(ISS)」拠点に対する空爆を実施。ISSの攻撃性や対外活動にどのような影響を与えるのか>

トランプ政権の発足から1ヶ月以上が過ぎたが、その関税政策やウクライナ政策などをめぐって諸外国の間では既に動揺や混乱が広がっている。

一方、メディアではなかなか報じられないが、トランプ政権は対テロでも動きを見せている。

トランプ大統領は2月1日、SNSへの投稿で、ソマリア北東部プントランドにあるイスラム国系組織「イスラム国ソマリア州(ISS)」の拠点を空爆し、洞窟に潜伏していた複数のテロリストを殺害したと明らかにした。


また、この組織は米国や同盟国を脅かし続け、米国は長年標的してきたが、バイデン前政権が行動を怠ってきたと批判し、米国人を攻撃しようとする者は必ず見つけ出して殺害するなどと投稿した。

第2次トランプ政権発足後、海外での軍事行動を発表したのはこれが初めてとなったが、トランプ大統領は政権1期目の時も、ソマリアを拠点とするアルカイダ系組織アルシャバブへの空爆を実施する時に合わせてISSへの攻撃も行ってきた。

多国籍集団、イスラム国の財政的ハブと化すISS

ISSの歴史を簡単に振り返ると、ソマリアでは長年アルシャバブが主要なジハード組織としての地位を確立。

2015年10月、アルシャバブの有力なイデオローグであるアブドゥル・カディール・ムーミン(Abdul Qadir Mumin)がイスラム国への忠誠を宣言(イスラム国中枢は2017年12月にISSを正式に支部と認定)。プントランドを拠点とする分派を形成した。

この動きは、ISがシリアやイラクで勢力を拡大する中で、アフリカでの足がかりを求める戦略の一環だった。

ムーミン率いるISSは当初活動が限定的だったが、2016年10月にカンダラ港を一時占拠するなど組織としての存在感を示し、資金源は恐喝や密輸、不法課税に依存し、主にプントランドの山岳地帯を拠点としている。

アルシャバーブに比べ規模は小さいが、近年では外国人戦闘員の流入や他のイスラム国系組織への送金などにより、地域的な武装闘争のみならず対外的なテロ活動にも比重を置き始めているとの懸念が広がっている。

トランプ政権がISSへの空爆を実施した背景にも、ISSの対外的攻撃性への懸念が考えられる。

今日、ISSは1000人あまりの戦闘員を擁するが、エチオピアやタンザニアなどの近隣国だけでなく、アルジェリア、チュニジア、リビア、モロッコ、パレスチナ自治区、サウジアラビア、シリア、チュニジアなど諸外国から多くの外国人戦闘員が加わる多国籍集団と化している。

ISSに流れ込む外国人戦闘員については、国連安全保障理事会の対テロモニタリングチームが定期的に公表する報告書でも懸念が指摘されている。

今後も外国人戦闘員による攻撃が繰り返されれば、それに魅了された過激派分子たちがいっそうISSに流入する可能性もあろう。

プロフィール

和田 大樹

株式会社Strategic Intelligence代表取締役社長CEO、清和大学講師(非常勤)。専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論など。大学研究者として国際安全保障的な視点からの研究・教育に従事する傍ら、実務家として海外進出企業向けに政治リスクのコンサルティング業務に従事。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

トランプ氏「ウクライナはモスクワ攻撃すべきでない」

ワールド

米、インドネシアに19%関税 米国製品は無関税=ト

ビジネス

米6月CPI、前年比+2.7%に加速 FRBは9月

ビジネス

アップル、レアアース磁石購入でMPマテリアルズと契
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:AIの6原則
特集:AIの6原則
2025年7月22日号(7/15発売)

加速度的に普及する人工知能に見えた「限界」。仕事・学習で最適化する6つのルールとは?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パスタの食べ方」に批判殺到、SNSで動画が大炎上
  • 2
    日本より危険な中国の不動産バブル崩壊...目先の成長だけ追い求め「失われた数百年」到来か?
  • 3
    「飛行機内が臭い...」 原因はまさかの「座席の下」だった...異臭の正体にネット衝撃
  • 4
    真っ赤に染まった夜空...ロシア軍の「ドローン700機…
  • 5
    「このお菓子、子どもに本当に大丈夫?」──食品添加…
  • 6
    「史上最も高価な昼寝」ウィンブルドン屈指の熱戦中…
  • 7
    約3万人のオーディションで抜擢...ドラマ版『ハリー…
  • 8
    「オーバーツーリズムは存在しない」──星野リゾート…
  • 9
    「巨大なヘラジカ」が車と衝突し死亡、側溝に「遺さ…
  • 10
    歴史的転換?ドイツはもうイスラエルのジェノサイド…
  • 1
    「ベンチプレス信者は損している」...プッシュアップを極めれば、筋トレは「ほぼ完成」する
  • 2
    「弟ができた!」ゴールデンレトリバーの初対面に、ネットが感動の渦
  • 3
    「お腹が空いていたんだね...」 野良の子ネコの「首」に予想外のものが...救出劇が話題
  • 4
    千葉県の元市長、「年収3倍」等に惹かれ、国政に打っ…
  • 5
    日本企業の「夢の電池」技術を中国スパイが流出...AP…
  • 6
    どの学部の卒業生が「最も稼いでいる」のか? 学位別…
  • 7
    イギリスの鉄道、東京メトロが運営したらどうなる?
  • 8
    完璧な「節約ディズニーランド」...3歳の娘の夢を「…
  • 9
    エリザベス女王が「うまくいっていない」と心配して…
  • 10
    「二度とやるな!」イタリア旅行中の米女性の「パス…
  • 1
    「コーヒーを吹き出すかと...」ディズニーランドの朝食が「高額すぎる」とSNSで大炎上、その「衝撃の値段」とは?
  • 2
    「あまりに愚か...」国立公園で注意を無視して「予測不能な大型動物」に近づく幼児連れ 「ショッキング」と映像が話題に
  • 3
    10歳少女がサメに襲われ、手をほぼ食いちぎられる事故...「緊迫の救護シーン」を警官が記録
  • 4
    JA・卸売業者が黒幕説は「完全な誤解」...進次郎の「…
  • 5
    ディズニー・クルーズラインで「子供が海に転落」...…
  • 6
    気温40℃、空港の「暑さ」も原因に?...元パイロット…
  • 7
    燃え盛るロシアの「黒海艦隊」...ウクライナの攻撃で…
  • 8
    「小麦はもう利益を生まない」アメリカで農家が次々…
  • 9
    イランを奇襲した米B2ステルス機の謎...搭乗した専門…
  • 10
    「うちの赤ちゃんは一人じゃない」母親がカメラ越し…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story