コラム

現代安全保障のパラドクス...テロに悪用されるAIにより世界が直面する危機

2025年04月10日(木)16時45分
AIとテロリズム:リスクと国際社会の対応

yakupyavuz -shutterstock-

<人工知能(AI)の技術的進歩は、社会のあらゆる分野に変革をもたらしているが、一方で、AIがテロリズムに悪用されるリスクも増大。国際社会は新たな安全保障上の課題に直面している>

【テロ組織によるAI悪用のリスク】

AIの悪用がテロリズムにもたらす脅威は多岐にわたる。

第一に、AIを活用した情報収集とプロパガンダの強化が挙げられる。テロ組織は既にソーシャルメディアを活用して過激思想の拡散やリクルート活動を行っているが、AIの自然言語処理(NLP)技術を用いることで、これをさらに効率化・自動化する可能性がある。


例えば、AIは大量のオンラインデータを解析し、脆弱な個人を特定し、カスタマイズされたメッセージでターゲットを洗脳するプロセスを加速できる。近年の研究では、AI生成テキストが人間の作成したプロパガンダと区別がつかないレベルに達していることが示されており、テロ組織が偽情報キャンペーンを展開する際の障壁が低下している。

第二に、AIを活用したサイバー攻撃の高度化である。テロ組織は、国家や企業のインフラを標的としたサイバー攻撃を仕掛けることで、社会的混乱を引き起こしてきた。AI、特に機械学習アルゴリズムを用いることで、ゼロデイ攻撃(未知の脆弱性を突く攻撃)の発見や、マルウェアの自己進化が可能となる。

例えば、AI駆動型マルウェアは、防御システムのパターンを学習し、検知を回避しながらターゲットに適応する能力を持つ。これにより、電力網や金融システムといった重要インフラへの攻撃が現実的な脅威となる。

第三に、無人兵器やドローンの自律化が挙げられる。AIを搭載したドローンは、事前にプログラムされた目標を追跡し、人間の介入なしに攻撃を実行できる。

市販のドローンにAIを組み込むことは技術的に決して難しくなく、テロ組織が低コストでこうした兵器を開発する可能性は高い。2018年にベネズエラで発生したドローンによる大統領暗殺未遂事件は、こうした技術が既に現実の脅威となりつつあることを示している。

AIの進化により、顔認識や群衆分析を組み合わせた精密な攻撃が実行可能となり、都市部でのテロの危険性が増す恐れもあろう。

最後に、AIによる監視技術の逆利用が考えられる。政府や企業がテロ対策として開発した顔認識や行動予測技術が、テロ組織にハッキングされ、逆に彼らの作戦遂行に利用されるリスクがある。

例えば、AIが市民の移動パターンを分析し、攻撃の最適なタイミングや場所を提案するツールとして機能する可能性がある。このような「技術の二重利用」は、AIの普及に伴い避けられない課題である。

プロフィール

和田 大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

金総書記、プーチン氏に新年メッセージ 朝ロ同盟を称

ワールド

タイとカンボジアが停戦で合意、72時間 紛争再燃に

ワールド

アングル:求人詐欺で戦場へ、ロシアの戦争に駆り出さ

ワールド

ロシアがキーウを大規模攻撃=ウクライナ当局
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:ISSUES 2026
特集:ISSUES 2026
2025年12月30日/2026年1月 6日号(12/23発売)

トランプの黄昏/中国AI/米なきアジア安全保障/核使用の現実味......世界の論点とキーパーソン

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「史上初の攻撃成功」の裏に、戦略的な「事前攻撃」
  • 2
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 3
    【世界を変える「透視」技術】数学の天才が開発...癌や電池の検査、石油探索、セキュリティゲートなど応用範囲は広大
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」と…
  • 6
    中国、米艦攻撃ミサイル能力を強化 米本土と日本が…
  • 7
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 8
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 9
    【クイズ】世界で最も1人当たりの「ワイン消費量」が…
  • 10
    「衣装がしょぼすぎ...」ノーラン監督・最新作の予告…
  • 1
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 2
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 3
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指すのは、真田広之とは「別の道」【独占インタビュー】
  • 4
    「食べ方の新方式」老化を防ぐなら、食前にキャベツ…
  • 5
    ウクライナ水中ドローンが、ロシア潜水艦を爆破...「…
  • 6
    中国、インドをWTOに提訴...一体なぜ?
  • 7
    【過労ルポ】70代の警備員も「日本の日常」...賃金低…
  • 8
    海水魚も淡水魚も一緒に飼育でき、水交換も不要...ど…
  • 9
    批評家たちが選ぶ「2025年最高の映画」TOP10...満足…
  • 10
    アベノミクス以降の日本経済は「異常」だった...10年…
  • 1
    日本がゲームチェンジャーの高出力レーザー兵器を艦載、海上での実戦試験へ
  • 2
    90代でも元気な人が「必ず動かしている体の部位」とは何か...血管の名医がたどり着いた長生きの共通点
  • 3
    人口減少が止まらない中国で、政府が少子化対策の切り札として「あるもの」に課税
  • 4
    アジアの豊かな国ランキング、日本は6位──IMF予測
  • 5
    日本人には「当たり前」? 外国人が富士山で目にした…
  • 6
    【銘柄】オリエンタルランドが急落...日中対立が株価…
  • 7
    日本の「クマ問題」、ドイツの「問題クマ」比較...だ…
  • 8
    「勇気ある選択」をと、IMFも警告...中国、輸出入と…
  • 9
    【衛星画像】南西諸島の日米新軍事拠点 中国の進出…
  • 10
    『SHOGUN 将軍』の成功は嬉しいが...岡田准一が目指…
トランプ2.0記事まとめ
Real
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story