コラム

ボンダイビーチ銃撃は「想定外」ではなかった ――オーストラリアを25年追い続けるテロの影

2025年12月24日(水)15時27分
ボンダイビーチ銃撃は「想定外」ではなかった ――オーストラリアを25年追い続けるテロの影

IOIO IMAGES -shutterstock-

<2025年12月14日、シドニーのボンダイビーチで起きた銃撃テロは、「安全な国」というオーストラリア社会の自己認識を根底から揺さぶった。だが、この惨劇は決して突発的なものではない>

2025年12月14日、シドニーのボンダイビーチで発生した銃撃テロは、平穏を享受してきたオーストラリア社会を震撼させた。しかし、オーストラリアは継続的にテロの脅威に直面してきた。

ボンダイビーチの惨劇

2025年12月14日、シドニーの象徴であるボンダイビーチの穏やかな夕刻は、突如として悲劇の舞台となってしまった。ユダヤ教の祭り「ハヌカ」を祝うため、アーチャー・パークに集まっていた約1000人の市民を、親子の男二人が襲撃した。歩道橋の上から群衆を見下ろす形で放たれた銃弾は、15人の命を奪い、40人以上に重軽傷を負わせた。


犯行車両からは手製の「イスラム国(IS)」の旗と即席爆発装置(IED)が発見され、オーストラリア警察は、これがISの思想に触発された反ユダヤ主義に基づくテロ事件であると断定した。

射殺された50歳のサジド・アクラムと、重傷を負い拘束された24歳の息子ナビードによるこの凶行は、1996年のポートアーサー事件以降、国内で最悪の銃乱射事件となった。

しかし、このテロ事件は、決して突発的なものとは言えない。ポスト9.11以降の国際的なテロ情勢において、オセアニアは中東やアフリカといった中心地(エピセンター)から遠く離れた周辺的な存在とされてきたが、その実態は常にグローバル・ジハードの標的であり続けていた。

オーストラリアは、アフガニスタンやイラクでの軍事行動、さらには対IS有志連合への参加を通じて、米国とともにリスクを共有してきた。この立ち位置ゆえに、アルカイダやISといった組織からすれば、オーストラリアは紛れもない「第一義的な敵」であった。

歴史を遡れば、オーストラリア国内での大規模なテロ実行こそ事前に阻止されてきたものの、その萌芽は随所に存在していた。2000年のシドニー五輪開催中に発覚した、ジェマー・イスラミア(JI)によるユダヤ・イスラエル権益を狙った未遂テロ事件は、祭典の裏側に潜む危うさを浮き彫りにした。

また、2009年8月には、ソマリアのイスラム過激派組織アルシャバブの影響を受けたグループが、シドニー近郊のホルズワージー陸軍基地を自動小銃で襲撃する計画を立てていたことが発覚し、警察に検挙された。これらの事例は、テロリストがオーストラリアの軍事的象徴や国際的な注目を集める場を、常に射程圏内に収めていたことを示している。

プロフィール

和田 大樹

CEO, Strategic Intelligence Inc. / 代表取締役社長
専門分野は国際安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障、地政学リスクなど。海外研究機関や国内の大学で特任教授や非常勤講師を兼務。また、国内外の企業に対して地政学リスク分野で情報提供を行うインテリジェンス会社の代表を務める。

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