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ボンダイビーチ銃撃は「想定外」ではなかった ――オーストラリアを25年追い続けるテロの影
隣国インドネシアの組織的ネットワークとJIの影
特に隣国インドネシアを拠点とするJIの存在は、オーストラリアにとって極めて深刻な脅威であった。JIはアルカイダのイデオロギーに賛同し、東南アジアでのイスラム国家建設を標榜していたが、その活動は直接的にオーストラリア人を標的とした。
2002年10月のバリ島・ディスコ爆弾テロ事件では、死者202人のうち88人がオーストラリア人であり、同国にとって国外での最大級の惨劇となった。さらに2004年9月には、ジャカルタのオーストラリア大使館が自爆テロの標的とされ、9人が死亡、約150人が負傷した。
一部の情報によれば、JIはオーストラリア国内に「Mantiqi IV」という支部を設け、国内のムスリムの若者を中心に過激化させる活動を行っていたとされる。この時期の脅威は、隣国に根を張る強固な組織的ネットワークが、物理的な国境を越えてオーストラリアに手を伸ばしていたという点で、極めて具体的な脅威であったと言える。
「組織型」から「ネットワーク・イデオロギー型」の脅威へ
しかし、オーストラリアが直面するテロの脅威は、「組織型」から「ネットワーク・イデオロギー型」へと変容していく。2014年ごろからのISの台頭に伴い、世界約80カ国以上から2万から3万人が外国人戦闘員としてシリアへ渡ったとされるが、オーストラリアからも少なくとも60人以上が参加し、中には現地で自爆テロを行った者もいた。
彼ら「リターン・ファイター」のリスクに加え、ISがインターネットやSNSを駆使して展開するイデオロギー拡散戦略が、テロとは無縁だった国内の若者を「ホームグローン・テロリスト」へと変貌させていく懸念が強まった。
その緊張が極まったのが2014年である。同年9月10日、ブリスベン南郊のイスラムセンターで、シリアのアルヌスラ戦線への勧誘や資金援助を行っていた男二人が逮捕された。
そのわずか一週間後の9月17日には、シドニーとブリスベンで800人体制の大規模捜査が実施され、一般市民を狙った無差別殺人計画を立てていた15人が逮捕された。
この計画は、IS幹部としてシリアにいたアフガニスタン系オーストラリア人が電話で指示したもので、「無作為に選んだ市民を誘拐し、斬首する様子をビデオに収めてISに送る」という極めて残虐な内容であった。この事件は、シリアの戦場とオーストラリアの日常が、デジタルの糸で直結している現実を突きつけた。
さらに、同年9月23日にはメルボルン郊外で、ISの旗を持った18歳の男が警察官二人を刺し、射殺される事件が発生。11月にはシドニーでIS支持者を名乗るグループがシーア派の男性を銃撃するなど、個別の暴力事件が相次いだ。
そして同年12月15日、シドニー中心部のマーティンプレイスにあるカフェで、イラン出身の男が17人を人質に立てこもった。
この事件では人質2人が犠牲となり、犯人は射殺された。犯人は精神的に不安定な背景を持ち、かつてはテロ組織との直接的な繋がりは見えないとされたが、ISの旗を掲げるよう強要するなど、その行動は明らかにISの「ブランド」を利用したものであった。これらは偶然ではなく、過激思想が社会の隙間に浸透していたことの現れであった。
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