コラム

プーチンが語る「デジタル・フリーダム」

2018年07月12日(木)15時00分

国際サイバーセキュリティ会議で演説するプーチン大統領 写真:土屋大洋

<W杯で盛り上がる中、モスクワで開かれた国際サイバーセキュリティ会議で、プーチンが「デジタル・フリーダム」を語った>

ロシアのウラジミール・プーチン大統領は遅刻魔として有名である。2016年12月、日本の安倍晋三首相との会談には2時間40分遅刻し、2014年10月のドイツのアンゲラ・メルケル首相との会談には4時間遅刻した。

国際サイバーセキュリティ会議の会場にぎっしり詰めかけた我々は、所在なく25分間待たされた。突然、スタッフが慌ただしく動き始めたと思ったら、プーチン大統領が舞台袖から早足で現れ、壇上のパネリストたちひとりひとりと握手した後、演題に立ち、原稿を読み始めた。「ここモスクワで、サッカー・ファンだけでなく、皆さんも、国際サイバーセキュリティ会議の参加者の皆さんも歓迎したいと思います。」

ロシアで開催されているワールドカップ・サッカーでは、参加32カ国中、世界ランキングが最も低かったロシア・チームは、ベスト8進出という快挙を見せ、翌々日にクロアチアとの準々決勝を控えていた。

各国で開かれる大規模サイバーセキュリティ会議

2018年7月5日と6日にモスクワで開かれた国際サイバーセキュリティ会議は、ロシアにとって初めてとなる大規模なサイバーセキュリティ会議だった。

IMG_5108.JPGモスクワで開かれた国際サイバーセキュリティ会議の様子

世界各国でこうしたサイバーセキュリティないしサイバースペースに関する会議が開かれるようになっている。イスラエルのサイバーウィーク、シンガポールの国際サイバーウィーク、エストニアのサイコン(CyCon)、中国の世界インターネット大会(烏鎮会議)、各国で巡回して行われているサイバースペース会議(ロンドン・プロセス)などが知られている。

ロシアの国際サイバーセキュリティ会議を主催したのは、ロシア最大の商業銀行といわれるズベルバンク(SBERBANK)である。ズベルバンクはもともと国立の銀行だったこともあり、プーチン政権とは密接な関係にある。国際サイバーセキュリティ会議には2300人の登録者があったという。

会議招待時点でプーチン大統領が最終セッションで司会をすると予告されていたが、プログラムには掲載されていなかった。会議開催前日に主催者からプログラム変更がアナウンスされ、プーチン大統領は午後一番に来て基調講演をするということになった。ズベルバンクとの密接な関係をうかがわせる。

ズベルバンクがこの会議をスポンサーすることにしたのは、ロシアでは銀行がサイバー犯罪の最大のターゲットになっているからだという。

しかし、会議を実質的に仕切っていたのはバイ・ゾーン(BI.ZONE)というサイバーセキュリティ会社である。若きCEOのドミトリー・サマルツェフによれば、同社は2014年のソチ冬季オリンピックを担当し、機能停止は一度もなかったという。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ワールド

石破首相「双方の利益になるよう最大限努力」、G7で

ワールド

米中貿易枠組み合意、軍事用レアアース問題が未解決=

ワールド

独仏英、イランに核開発巡る協議を提案 中東の緊張緩

ワールド

イスラエルとイランの応酬続く、トランプ氏「紛争終結
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:非婚化する世界
特集:非婚化する世界
2025年6月17日号(6/10発売)

非婚化・少子化の波がアメリカもヨーロッパも襲う。世界の経済や社会福祉、医療はどうなる?

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「タンパク質」より「食物繊維」がなぜ重要なのか?...「がん」「栄養」との関係性を管理栄養士が語る
  • 2
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高にかっこいい」とネット絶賛 どんなヘアスタイルに?
  • 3
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波でパニック...中国の輸出規制が直撃する「グローバル自動車産業」
  • 4
    サイコパスの顔ほど「魅力的に見える」?...騙されず…
  • 5
    林原めぐみのブログが「排外主義」と言われてしまう…
  • 6
    メーガン妃とキャサリン妃は「2人で泣き崩れていた」…
  • 7
    若者に大不評の「あの絵文字」...30代以上にはお馴染…
  • 8
    ハルキウに「ドローン」「ミサイル」「爆弾」の一斉…
  • 9
    さらばグレタよ...ガザ支援船の活動家、ガザに辿り着…
  • 10
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 1
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の瞬間...「信じられない行動」にネット驚愕
  • 2
    大阪万博は特に外国人の評判が最悪...「デジタル化未満」の残念ジャパンの見本市だ
  • 3
    「セレブのショーはもう終わり」...環境活動家グレタらが乗ったガザ支援船をイスラエルが拿捕
  • 4
    「サイドミラー1つ作れない」レアアース危機・第3波で…
  • 5
    ブラッド・ピット新髪型を「かわいい」「史上最高に…
  • 6
    ファスティングをすると、なぜ空腹を感じなくなるの…
  • 7
    今こそ「古典的な」ディズニープリンセスに戻るべき…
  • 8
    アメリカは革命前夜の臨界状態、余剰になった高学歴…
  • 9
    右肩の痛みが告げた「ステージ4」からの生還...「生…
  • 10
    脳も体も若返る! 医師が教える「老後を元気に生きる…
  • 1
    日本の「プラごみ」で揚げる豆腐が、重大な健康被害と環境汚染を引き起こしている
  • 2
    【定年後の仕事】65歳以上の平均年収ランキング、ワースト2位は清掃員、ではワースト1位は?
  • 3
    日本はもう「ゼロパンダ」でいいんじゃない? 和歌山、上野...中国返還のその先
  • 4
    一瞬にして村全体が消えた...スイスのビルヒ氷河崩壊…
  • 5
    庭にクマ出没、固唾を呑んで見守る家主、そして次の…
  • 6
    大爆発で一瞬にして建物が粉々に...ウクライナ軍「Mi…
  • 7
    「ママ...!」2カ月ぶりの再会に駆け寄る13歳ラブラ…
  • 8
    あなたも当てはまる? 顔に表れるサイコパス・ナルシ…
  • 9
    ドローン百機を一度に発射できる中国の世界初「ドロ…
  • 10
    【クイズ】EVの電池にも使われる「コバルト」...世界…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story