コラム

プーチンが語る「デジタル・フリーダム」

2018年07月12日(木)15時00分

変わらない政府と事業者の協力

2日目の全体会合のパネリストとして、ユージーン・カスペルスキーも登壇した。彼の会社カスペルスキー・ラボは、2016年の米国大統領選挙にロシアが介入したとされる疑惑のあおりを受けて、米国政府の調達から追放されている。パネル討論の司会者が「サイバースペースでは保護主義が見られるようになっている。ユーゲネ(ユージーン)、君の会社はその良い例だ」というと、カスペルスキーは「悪しき例だ!」とすぐさま突っ込んだ。

カスペルスキーは、ロシアにまだ滞在しているといわれるエドワード・スノーデンについても言及している。司会者に「スノーデンは無駄なことをしたのだろうか」と問いかけられ、別のパネリストが返答に窮すると、カスペルスキーが割り込んで、「彼の暴露は私人には影響があったが、公人には影響はなかったということだろう」という。

IMG_4845a.jpgパネル討論に参加するカスペルスキー

つまり、米国のソーシャルネットワーキングサービス(SNS)の多くが米国政府とデータを共有しているとスノーデンが暴露したため、そうしたサービスの使い方を個々のユーザーは考えるようになった。しかし、暴露されたデータの出所の米国国家安全保障局(NSA)をはじめ、各国の政府機関はほとんど政策を改めなかった。英国、中国、ロシアをはじめ多くの国の政府がインターネットの監視を続けている。

バイ・ゾーンのサマルツェフCEOも、法執行機関(警察)やインターポール(国際刑事警察機構)との協力を強調した。近年のサイバー犯罪では個人データがますます狙われるようになっており、法執行機関は対応に遅れが見られ、技術に追いつけていないという。犯罪者の世界に国境はない。法に従う必要すら感じていない。

デジタル・フリーダム

プーチン大統領は演説の中で「デジタル・フリーダム」という言葉を使った。つまり、「効率的なデジタル展開は、進展を妨げる障壁を撤廃することに関する、ビジネス、公的組織、市民のためのデジタル・フリーダムにだけ基づくということを指摘したい。しかし、それにもかかわらず、我々はみな、デジタル領域の挑戦とともに、責任と潜在的なリスクや脅威についても理解する必要がある」という。つまり、制約付きのデジタル・フリーダムであり、絶対的なデジタル・フリーダムの追求を目指すわけではない。

演説の後半でプーチン大統領はこうも言った。「すでに述べたように、我々の荒れ狂うデジタル時代は、自由に依存しており、それは経験とアイデアを交換し、コミュニケーションをする自由を含んでいる。」

ロシアは2016年の米国大統領選挙に介入したとされる一方で、フェイク・ニュースの発信源としても知られている。国内では反政府、反プーチンを鮮明にするブロガーたちを抑圧しているともいわれている。それにもかかわらず、プーチン大統領は「デジタル・フリーダム」という言葉を使った。

そして、プーチン大統領は国際協力の重要性を力説した。サイバー犯罪に関する情報を国際的に交換するための担当機関も選定するという。

プロフィール

土屋大洋

慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科教授。国際大学グローバル・コミュニティセンター主任研究員などを経て2011年より現職。主な著書に『サイバーテロ 日米vs.中国』(文春新書、2012年)、『サイバーセキュリティと国際政治』(千倉書房、2015年)、『暴露の世紀 国家を揺るがすサイバーテロリズム』(角川新書、2016年)などがある。

あわせて読みたい
ニュース速報

ビジネス

アングル:日本株にくすぶる下げ加速リスク、高市トレ

ワールド

ICJ、ガザ・西岸でのイスラエルの義務巡り勧告的意

ビジネス

英CPI、9月3.8%で3カ月連続横ばい 12月利

ワールド

インドネシア中銀、予想外の金利据え置き 過去の利下
あわせて読みたい
MAGAZINE
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
特集:脳寿命を延ばす20の習慣
2025年10月28日号(10/21発売)

高齢者医療専門家の和田秀樹医師が説く――脳の健康を保ち、認知症を予防する日々の行動と心がけ

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 5
    米軍、B-1B爆撃機4機を日本に展開──中国・ロシア・北…
  • 6
    【クイズ】12名が死亡...世界で「最も死者数が多い」…
  • 7
    【2025年最新版】世界航空戦力TOP3...アメリカ・ロシ…
  • 8
    汚物をまき散らすトランプに『トップガン』のミュー…
  • 9
    「認知のゆがみ」とは何なのか...あなたはどのタイプ…
  • 10
    【クイズ】世界で唯一「蚊のいない国」はどこ?
  • 1
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 2
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号返上を表明」も消えない生々しすぎる「罪状」
  • 3
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多い県」はどこ?
  • 4
    今年、記録的な数の「中国の飲食店」が進出した国
  • 5
    まるで『トップガン』...わずか10mの至近戦、東シナ…
  • 6
    フィリピンで相次ぐ大地震...日本ではあまり報道され…
  • 7
    本当は「不健康な朝食」だった...専門家が警告する「…
  • 8
    日本で外国人から生まれた子どもが過去最多に──人口…
  • 9
    「心の知能指数(EQ)」とは何か...「EQが高い人」に…
  • 10
    TWICEがデビュー10周年 新作で再認識する揺るぎない…
  • 1
    かばんの中身を見れば一発でわかる!「認知症になりやすい人」が持ち歩く5つのアイテム
  • 2
    「大谷翔平の唯一の欠点は...」ドジャース・ロバーツ監督が明かすプレーオフ戦略、監督の意外な「日本的な一面」とは?
  • 3
    【クイズ】ヒグマの生息数が「世界で最も多い国」はどこ?
  • 4
    増加する「子どもを外注」する親たち...ネオ・ネグレ…
  • 5
    1000人以上の女性と関係...英アンドルー王子、「称号…
  • 6
    悲しみで8年間「羽をむしり続けた」オウム...新たな…
  • 7
    バフェット指数が異常値──アメリカ株に「数世代で最…
  • 8
    「日本の高齢化率は世界2位」→ダントツの1位は超意外…
  • 9
    お腹の脂肪を減らす「8つのヒント」とは?...食事以…
  • 10
    【クイズ】日本でツキノワグマの出没件数が「最も多…
トランプ2.0記事まとめ
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story