コラム

短歌はなぜ現代の人々に愛されているのか?

2022年12月30日(金)07時00分
カン・ハンナ(歌人、タレント、国際文化研究者)
短歌

GYRO PHOTOGRAPHY/GETTY IMAGES

<和歌を詠むことは、実はマインドフルネスでもあると思う。それが、今も短歌を詠む人が何十万人もいる理由の1つではないだろうか>

世界的に「マインドフルネス」が関心を集めている。

日々の心配事や不安な気持ち、他人からの評価など、つい頭に浮かんでしまうことを鎮め、より自分自身に集中できるよう精神状態を整えるためのものであり、その手法としてメディテーション(瞑想)などが用いられる。

マインドフルネスは仏教思想を元にアメリカで生み出されたが、特にこの数年、欧米では「Search Inside Yourself(SIY)」というその実践法を求める人が急増した。

日本などアジアにも逆輸入され、メディテーションを体験できるスタジオやプログラムが目につくようになった。

それだけ現代社会ではメンタルケアが大事になっているのだろう。特にコロナ禍で勤務環境が変化し、将来への不安が高まって、健全な精神状態を保つことが以前より難しくなっている気がする。

マインドフルネスはそもそも「自分の心を整える」「自分の精神状態を鍛える」ことにつながる話だが、日本文化にもマインドフルネスの可能性が内在しているのではないかと思う。

必ずしも、わざわざ特別なプログラムに参加してメディテーションをしてみなくてもいい。むしろなじみのある文化の中に、心を整える方法を見つけてみてはどうだろうか。

私は日本に来て9年ほど短歌を詠み続けているが、その中で感じているのは、短歌は伝統文学でありつつも、マインドフルネスのメソッドでもあるということ。もう少し具体的に話したい。

短歌は和歌の形式の1つで、5 7 5 7 7の31音で作る短い詩。1400年以上続いている日本の伝統文学として代表的な歌集に『記紀歌謡』や『万葉集』などがあるが、昔は宴や旅行のときに歌を詠むことや恋の歌を詠むことも人気を集めていた。

つまり、一部の特別な人だけの文学ではなく、時には誰かに想いを届けるための手紙として、また自分の日々を記録する日記のような存在としても、短歌は長く愛されてきたのだ。

1400年以上もの歴史があること自体、本当に素晴らしいことだと思う。しかも、あまり知られていないかもしれないが、日本には今も短歌を詠んでいる人が少なくとも数十万人いる。またSNSの中でも、文字数の制限があるツイッターでは現代短歌が人気を集めている。

なぜ短歌は現代の人々にこれほど愛されているのだろうか。

さまざまな理由があるだろうが、私は短歌を通じて自分の心を整えられるのが何よりもうれしい。

短歌は31文字の世界であるため、言葉の中で余計なものを削る作業をする。その後、本当に表現したい言葉だけを残す。だから私は短歌を「言葉の引き算」と呼ぶ。「足す」ことより「引く(削る)」ことを大事にする世界なのだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ワールド

アングル:トランプ氏なら強制送還急拡大か、AI技術

ビジネス

アングル:ノンアル市場で「金メダル」、コロナビール

ビジネス

為替に関する既存のコミットメントを再確認=G20で

ビジネス

米国株式市場=上昇、大型ハイテク株に買い戻し 利下
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:トランプ暗殺未遂
特集:トランプ暗殺未遂
2024年7月30日号(7/23発売)

前アメリカ大統領をかすめた銃弾が11月の大統領選挙と次の世界秩序に与えた衝撃

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理由【勉強法】
  • 2
    BTS・BLACKPINK不在でK-POPは冬の時代へ? アルバム販売が失速、株価半落の大手事務所も
  • 3
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子どもの楽しい遊びアイデア5選
  • 4
    キャサリン妃の「目が泳ぐ」...ジル・バイデン大統領…
  • 5
    地球上の点で発生したCO2が、束になり成長して気象に…
  • 6
    カマラ・ハリスがトランプにとって手ごわい敵である5…
  • 7
    トランプ再選で円高は進むか?
  • 8
    拡散中のハリス副大統領「ぎこちないスピーチ映像」…
  • 9
    中国の「オーバーツーリズム」は桁違い...「万里の長…
  • 10
    「轟く爆音」と立ち上る黒煙...ロシア大規模製油所に…
  • 1
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラニアにキス「避けられる」瞬間 直前には手を取り合う姿も
  • 2
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを入れてしまった母親の後悔 「息子は毎晩お風呂で...」
  • 3
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」、今も生きている可能性
  • 4
    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…
  • 5
    「習慣化の鬼」の朝日新聞記者が独学を続けられる理…
  • 6
    【夏休み】お金を使わないのに、時間をつぶせる! 子…
  • 7
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 8
    「失った戦車は3000台超」ロシアの戦車枯渇、旧ソ連…
  • 9
    「宇宙で最もひどい場所」はここ
  • 10
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った…
  • 1
    中国を捨てる富裕層が世界一で過去最多、3位はインド、意外な2位は?
  • 2
    ウクライナ南部ヘルソン、「ロシア軍陣地」を襲った猛烈な「森林火災」の炎...逃げ惑う兵士たちの映像
  • 3
    ウクライナ水上ドローン、ロシア国内の「黒海艦隊」基地に突撃...猛烈な「迎撃」受ける緊迫「海戦」映像
  • 4
    ブータン国王一家のモンゴル休暇が「私服姿で珍しい…
  • 5
    正式指名されたトランプでも...カメラが捉えた妻メラ…
  • 6
    韓国が「佐渡の金山」の世界遺産登録に騒がない訳
  • 7
    すぐ消えると思ってた...「遊び」で子供にタトゥーを…
  • 8
    月に置き去りにされた数千匹の最強生物「クマムシ」…
  • 9
    メーガン妃が「王妃」として描かれる...波紋を呼ぶ「…
  • 10
    「どちらが王妃?」...カミラ王妃の妹が「そっくり過…
日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story