コラム

茶道を始めて知った日本人の意外なしたたかさ

2022年06月01日(水)12時10分
周 来友(しゅう・らいゆう)
茶道

AFLO

<日本独自の文化に憧れ、ついに茶道のお稽古に通い始めた。その歴史を知ると、真面目でナイーブな印象の強い日本人の違った側面が見えてきた>

こう見えて、私は日本好きの日本びいきだ。あと2年で還暦を迎えるという年齢になり、日本文化を深く知りたいという気持ちも一層強まってきた。

もちろん中国にも歴史のある文化がたくさんあるが、「わびさび」といった日本独自の文化に憧れるのだ。

とりわけ興味があったのが、茶道である。仕事に追われ、なかなか余裕がなかったが、ついにこの春からお稽古に通い始めた。

そのおかげで日本人の意外な一面も知ることになったのだが、その前にまず、昨年11月に東京タワーの近くの増上寺で開かれた展示会の話をしたい。年に数回行われる、京都の業者が茶道具などを展示即売する催しだ。

興味半分で行ったのだが、偶然にもある掛け軸が私の目に飛び込んできた。「無一物」と書かれたそれは、江戸後期の臨済宗の僧、松月老人(宙宝宗宇ともいう)の作。

これこそ「わびさび」じゃないか、と衝撃が走った。お値段は......結構な金額だ。

財布の中の現金は数万円足りなかったが、どうしても欲しい。全部渡すから売ってくれないかと頼むと、外国人がそこまでほれ込んでくれたのかと、承諾してくれた。

まさに「無一物」ならぬ無一文となって手に入れたその掛け軸は今、大切に飾ってある。

日本文化に対する私の本気度をこれで分かっていただけるだろうか。

茶道は現在、毎週日曜日、田園調布まで通って芦田宗春という表千家の先生に習っている。まだ40代と若い男性の先生で、ある日本人陶芸家が紹介してくれた。

私は初心者なので基礎から習っているところだが、茶道は奥が深く、1年や2年でマスターできるものではないらしい。平日の教室には年配の男性もいると聞くが、私の「クラスメイト」は全て日本人女性で、中には12年続けている人もいる。外国人の生徒は珍しいと、先生にはたいそう喜んでもらえた。

茶道を形作ったのは安土桃山時代の茶人、千利休。日本人なら誰もが知っているだろう。利休は豊臣秀吉に重用されたが、最後には秀吉の怒りを買って切腹した。パトロンは必要でも、政治に近づきすぎれば身を滅ぼす、という好例だ。

茶道にはいくつか流派があり、代表的なのは、私が習っている表千家と、裏千家、武者小路千家の3つ。先生から聞いたのだが、利休の死後、流派が分かれた理由には「生存戦略」の側面もあったという。流派が複数あれば、1つがつぶされても茶道そのものは絶えずに済むと考えたのだ。

プロフィール

外国人リレーコラム

・石野シャハラン(異文化コミュニケーションアドバイザー)
・西村カリン(ジャーナリスト)
・周 来友(ジャーナリスト・タレント)
・李 娜兀(国際交流コーディネーター・通訳)
・トニー・ラズロ(ジャーナリスト)
・ティムラズ・レジャバ(駐日ジョージア大使)

今、あなたにオススメ
ニュース速報

ビジネス

アングル:日銀会合直後の為替介入、1年半前の再現巡

ビジネス

独IFO業況指数、4月は予想以上に改善 サービス業

ワールド

インドネシア中銀、予想外の0.25%利上げ 通貨下

ワールド

再送-イスラエル、近くラファに侵攻 国内メディアが
今、あなたにオススメ
MAGAZINE
特集:世界が愛した日本アニメ30
特集:世界が愛した日本アニメ30
2024年4月30日/2024年5月 7日号(4/23発売)

『AKIRA』からジブリ、『鬼滅の刃』まで、日本アニメは今や世界でより消費されている

メールマガジンのご登録はこちらから。
人気ランキング
  • 1

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 2

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴らす「おばけタンパク質」の正体とは?

  • 3

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の「爆弾発言」が怖すぎる

  • 4

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 5

    「誹謗中傷のビジネス化」に歯止めをかけた、北村紗…

  • 6

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 7

    イランのイスラエル攻撃でアラブ諸国がまさかのイス…

  • 8

    「なんという爆発...」ウクライナの大規模ドローン攻…

  • 9

    心を穏やかに保つ禅の教え 「世界が尊敬する日本人100…

  • 10

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた…

  • 1

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なない理由が明らかに

  • 2

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価」されていると言える理由

  • 3

    タトゥーだけではなかった...バイキングが行っていた「身体改造」の実態...出土した「遺骨」で初の発見

  • 4

    「世界中の全機が要注意」...ボーイング内部告発者の…

  • 5

    ハーバード大学で150年以上教えられる作文術「オレオ…

  • 6

    医学博士で管理栄養士『100年栄養』の著者が警鐘を鳴…

  • 7

    NewJeans日本デビュー目前に赤信号 所属事務所に親…

  • 8

    「たった1日で1年分」の異常豪雨...「砂漠の地」ドバ…

  • 9

    「毛むくじゃら乳首ブラ」「縫った女性器パンツ」の…

  • 10

    ダイヤモンドバックスの試合中、自席の前を横切る子…

  • 1

    人から褒められた時、どう返事してますか? ブッダが説いた「どんどん伸びる人の返し文句」

  • 2

    韓国で「イエス・ジャパン」ブームが起きている

  • 3

    88歳の現役医師が健康のために「絶対にしない3つのこと」目からうろこの健康法

  • 4

    ロシアの迫撃砲RBU6000「スメルチ2」、爆発・炎上の…

  • 5

    バルチック艦隊、自国の船をミサイル「誤爆」で撃沈…

  • 6

    最強生物クマムシが、大量の放射線を浴びても死なな…

  • 7

    ロシアが前線に投入した地上戦闘ロボットをウクライ…

  • 8

    「燃料気化爆弾」搭載ドローンがロシア軍拠点に突入…

  • 9

    1500年前の中国の皇帝・武帝の「顔」、DNAから復元に…

  • 10

    世界3位の経済大国にはなれない?インドが「過大評価…

日本再発見 シーズン2
CHALLENGING INNOVATOR
Wonderful Story